第41章


[55]


「まだこのアジトに売れ残っている子どものポケモンはいるか?」
 尋問は続いている。
「もういない」
「そうか。最後に一つ――最後まで売れ残っていた子の処遇は、どうしていた?」
 帯電で毛並みが逆立つマフラー野郎の問いに、ヘルガーはくつくつと笑い返す。
「……新鮮な焼き立ての餌が俺の大好物なのさ。主人は定期的に、新鮮な餌を与えてくださった。
主人はいつも楽しそうに眺めてくださっていたよ。俺が獲物を――こんな風に焼く様をな!」
 顔を大きく跳ね上げ、ヘルガーは口を開く。しかし、その炎は喉を上がりきることなく、断末魔へと変わる。
マフラー野郎は宙へと持ち上げられながらも奴の顔面は掴んだまま、強力な電流を流し込んでいた。
「動くな、と言ったはずだ」
 地に降り立ち、マフラー野郎は顔をおさえて蹲るヘルガーを冷徹に見下ろした。
「……あの子との約束がある。『どんな命にも、必ず生きている意味はある』――もう俺は命は奪えない。例えお前のような奴でも」
「ぐううぅぅぅ、俺の顔が、顔が熱い、熱い! 許さん、許さん、許せねえ! この痛み、屈辱、倍以上にして返してやる!
 地の果てまでも追い詰めて、どんな手段を使ってでも、必ず殺してやる! 殺してやるぞ、ネズミィィィ!」
 地獄の底から響いてくるような憎悪の声を背に受けながら、あいつはこちらへと向かってくる。
あっしは思わず息を呑み、慌ててダクトの奥へ顔を引っ込めた。
 ただのネズミが強力で冷徹な兵士に変えられる……軍隊ってのは、どれだけ過酷な環境なのか。
その恐ろしさが垣間見えた気がした。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.