第41章


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 ヘルガーの喉元を赤い閃光が駆け昇り、こちらに向けて口を開け放つ。
「散開!」
 マフラー野郎が叫んだ。直後、鉄砲水の如く迫り来る紅蓮の熱波をあっしは死に物狂いで飛んで避け、
一心にワンリキーへと飛び掛った。
「くのッ! このッ! 倒れろ、このやろッ!」
 追い払おうと幾度も振るわれるごつごつとした灰色の拳を、あっしは寸でのところで飛んで避け逃れながら、
奴の頭に纏わり付いて足の爪で何度も何度も蹴りかかった。ぎりぎりの攻防を繰り返す内に、
やがてあっしの爪は奴の瞼を掠る。脳味噌まで硬い筋肉で出来ていそうな奴だったが、
瞼までは鍛えきれていなかったようだ。堪らず奴は少し裂けた瞼を手で覆って怯む。
「――ッ! トドメだ、クソッタレ!」
 ここぞとばかりに、あっしは奴の隙だらけの脳天を嘴で思い切り突く。奴は目を白黒させながら少しの間
その場でふらつき、膝から崩れ落ちるように倒れこんだ。
「か、勝った、勝てた……!」
 あっしは息を荒くしながら、ぴくぴくと気絶しているワンリキーをしばらく茫然と眺めた。
 ――あいつらは! あいつらはどうなった!?
 我に返って、あっしは倉庫を見回し、最初にニャルマーの姿を見つける。何かを睨みつける視線の先、
その足元には、顔面を引っ掻き傷だらけにされたスリープが、どういうわけかイビキをかいてすやすやと寝入っていた。
ニャルマーは安堵した様子で顔を上げて周りを見渡し、あっしと目が合う。
「おや、アンタもそいつ倒したのかい。思っていたよりもやるじゃないか」
 その瞬間、あっしは少し頭がぼんやりとして、足下がくらくらとした。まさか、まさか、あっしがこんな奴に見惚れた――!?

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