第29章
[05]
食事も終え、各々が出発に向けて準備を始めている。
余った木の実をマントの裏地のポケットに詰めながら俺は何となく考えていた。帰る場所があるというのはいいものだ――介抱の途中、ピジョンはそう呟いた。
俺にはあるだろうか。少なくとも前の自分には無かった。いや、そんなくだらないものは考えることも必要とすることもなかっただろう。だが――。
おっと。ぼんやりとしていたせいか、木の実を一つ滑り落としてしまう。木の実はころころと洞窟の方へ転がっていった。軽く舌打ちし、それを追っていく。
木の実は洞窟の入り口を転がり落ちてくぐり、さらに奥地へと行こうとしていたところで俺の手により取り押さえられた。
やれやれ、と木の実を拾い上げた瞬間、不意に脳天に冷たい水滴が当たる。上を見ると凍り付いていた天井が、あちこちから雫を垂らしていた。
氷が溶け始めているのか。だが、いくら元凶が去ったとしても、あれだけ分厚く凍り付いていたものがこんなにも早く溶けだすものだろうか。地の奥底から少し熱が伝わって来ているような気さえする――?
「何やってんのよ、ピカチュウ。みんな支度終わってるんだけどー」
「さっさと準備しろとか行ってたのはピカチュウさんでしたよねー」
納得のいく答えが出る前に、浮かんでくる疑念は外からの呼び声に止められた。
「おいてっちゃうよー。それでもいーけどー、キャハハ」
「ダメだと思うけど……」
木の実をしまい込み、俺はその呼び声に小煩そうにして応える。
ふん、何時もながら騒々しい奴らだ。これではどこにも行けそうにないではないか。
――帰ろう。あくまでも仕方がなく、だ。
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