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《完結》負けない!!負け犬【１】～２０代後半・真選組女子隊長の日記～

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[67]１０月２７日

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坂田家はどうしてこうも貧しいのだろう。

私が見る限りでは、波は多少あるにせよ万事屋の仕事はコンスタントに入って来ている様だし、銀時達もそこそこ真面目に取り組んでいる。

生活自体も決して派手ではないし、食事も…

…食事!!

そうか、食事が問題だったのか!!

夜兎族出身で食べ盛りの神楽ちゃんの白飯は、お茶碗ではなく炊飯器単位だし、さらにペットの定春はドッグフードを日に５袋食べる。

こりゃ家計も崩壊するわ。

幸いにして、危険な任務に着いている私の収入が高額なので、今はどうにかこうにか運営出来る。

しかしこれから先、子供が出来て産休または退職したら、たちまちうちは崩落の一途を辿る事になるだろう。

その辺り、銀時はどう考えているのだろうか…。

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今日、これまでお世話になった寮を退いた。

毎日休憩時間に少しずつ片付けを進めていたので、軽トラックで運ぶだけで済んだ。

二月にアパートから寮に移った際に家具の大半を処分した為、荷物という荷物はそんなにない。

【嫁入り道具】と呼ぶにはあまりに寂しい量だ。

軽トラから荷をおろし、銀時の寝室へ運び入れる。

元々狭い部屋がもっと狭くなってしまったが、居心地は悪くない。

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引っ越しも一段落着いたので、下の階に暮らす大家さんのうちにご挨拶しに行く事にした。

入籍した日にもご挨拶に伺ったのだが、改めて一言頭を下げるのが大人の姿勢というものだろう。

銀時と二人で階下へ降り、【スナックお登勢】の暖簾をくぐる。

｢おーい、ババァいるかー？｣

いつもの口の悪さを改める事なく大家さんを呼ぶ銀時を、肘で小突く。

するとカウンターの奥から綺麗に結い上げた髪に手をやりながら、くわえタバコで大家のお登勢さんが現れた。

｢なんだい、まだ店を開ける時間じゃないって事ぐらい知ってんだろぅが、この天然ボケパーマネントが!!
何かい?溜まった家賃の支払いでもしに来たのかい!?｣

粋な江戸っ子口調でまくし立てられ、銀時はカチンと来たようだが、今日に限っては逆ギレする場面ではないとよく自覚しており、襟を正して彼女に向き直った。

｢あ～、えっとぉ…嫁さんの家移りが完全に済んだのでぇ、改めてご挨拶に参りましたぁ、坂田でぃ～す。
その…まぁこれからもよろしくっつー事で…よろしくぅ。｣

挨拶とも何ともつかないような台詞でお茶を濁した。

まぁ銀時らしいっちゃあらしいが…。

しかし先程お登勢さんが言っていた家賃滞納の件が気になる。

一体いくら滞らせているんだろう？

｢あの、お家賃の事ですが、どれくらいお支払いしてないんでしょうか？

今お支払い出来る分だけでもさせていただければと思うんですが…｣

銀時の肩越しにお登勢さんに問うと、タバコをスパッと一息吸い込み灰皿に押し潰した。

｢…天パー、あんたちょいと上に上がっときな。

女同士で話しがあるから。｣

お登勢さんは銀時にアゴで合図した。

女同士と付けられたからにはここには居づらい。

銀時は頭を掻きながら大人しく二階の部屋へ帰って行った。

｢座んなよ。｣

私は一番奥のカウンター席につく。

お登勢さんは新しいタバコに火を点け、天井に向かって煙をはき、そのままの姿勢で話し始めた。

｢ちょいと私の昔話に付き合っとくれよ。｣

ボトル棚にもたれかかり、腕組みしてタバコを燻らせる彼女は、シワだらけの顔ながら美しかったであろう過去がうかがえる。

｢アタシの旦那はね、結婚してたったの二年で死んだんだ。

普段はチンタラ暮らしてるように見えて、実はそこそこ働いてて、情に厚くて、色んな人に慕われてて、ここぞという時にはバシッと決める…そんな男だったさ。

…どっかのバカと一緒さね。フフ…

こんな男だから当然金なんかありゃしない。

仕方無いからアタシが店を切り盛りして、どうにか生活はやっていけてたんだ。
ところが、生活の為ってアタシが頑張り過ぎて、お腹に出来た赤ん坊…流産しちまったのさ。｣

タバコを流しにポイと投げ入れ、水道の蛇口を思い切りひねった。

｢旦那、ものすごくショック受けてね。『俺のせいだ』、『俺が悪かったんだ』って…。

そんで金を得ようってんで、危険な仕事を請け負っちまったのさ。

人にゃ言えないような仕事をね。

本当ならあの人はそんなの引き受ける男じゃないんだ。

でも家族の為だ…なんて。

自分はカッコイイ事言ったつもりなんだろうけど、結局は…｣

宙を仰ぎ、お登勢さんは目を閉じた。

｢女が金の尻拭いするようなマネしちゃ駄目だっつー悪いお手本さね。

だからアンタも高給取りかもしんないけど、生活費は入れちゃ駄目だ。

普段は家族一緒に『ひもじい、ひもじい』と言っておいて、どうしてもの時だけサッと差し出す。

それが旦那のプライドを傷付けない、良い嫁ってもんさ。｣

お登勢さんが流し目でニッと笑った。

｢あっ、そうだった。

こないだアンタ達の結婚式をかぶき町町内会でやるって回覧板が回って来たっけねぇ。｣

彼女は奥の部屋から桐の箱を運んできた。

｢一回しか着てないから、アンタ使っとくれよ。

目の肥えたお水の姐さん達から祝いに貰ったもんだから、モノは悪くないはずだからね。｣

手渡された箱を丁寧に開けると、中には友禅の真っ白い着物が入っていた。

｢私の花嫁衣装さ。

これでかぶき町を練り歩いて御披露目しとくれよ。｣
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