暴走堕天使エンジェルキャリアー


[57]生命賭けし者


0号機―ミカエルはラファエルを抱きかかえると、翼を羽ばたかせ、特務隊本部直上の射出ゲートに向かう。そしてゆっくりとラファエルをゲートに横たえる。
「桐嶋、聞こえるか?」
管制室に九十九の声が響く。
「はい、聞こえます。」
「ラファエルを…彩夏を頼む。」
九十九がそう言うと、ラファエルを乗せたゲートの天板がゆっくりと沈んでいく。それを確認した九十九は、ミカエルを反転させ、再びBEASTと対峙する。
両者は暫く睨み合った後、翼を大きく広げ羽ばたき、一瞬にして互いの間合いに入る。そして互いに右腕を振りかぶり、互いの顔面に拳を極める。
その瞬間、両者を中心に衝撃波が広がり、ビルの瓦礫を宙に舞わせる。そして互いを十数メートル弾き飛ばす。
息つく暇も無く両者は再度接近し、殺陣を演じながら空中を所狭しと飛び回る。ソニックブームが雲を裂いたかと思うと、地上に姿を現し、アスファルトを大きく陥没させる。
やがて両者は光の筋となり、光の筋が激突する度に轟音と衝撃波を発生させる。その様子をモニターしていた特務隊の面々は、ただじっとモニターに釘付けになっていた。

「三佐、これは…?」
桐嶋が小笠原を見上げる。
「音速を超え…すでに光速に達しているんだ。相対性理論すら軽々と覆すのか…常識を逸している…」
数度の轟音が空から聞こえた後、地面が大きく陥没する。砂煙が収まると、そこには頭を垂れ、びくびくと痙攣するBEASTの姿があった。
そしてBEASTを目掛け、一筋の光が迫る。光の筋がBEASTに達すると、衝撃波が巻き起こる。
一筋の風が吹き砂塵を一掃すると、上段で腕を構えているBEASTと、その腕に踵を叩きつけているミカエルの姿があった。
BEASTは力を込めてミカエルを振り払うと、大きく上体を反らし、一気に息を吐くように頭を縦に振りおろす。
するとミカエルに引きちぎられた左腕が再生される。そして左腕を大きく振りかぶると、ミカエルに向け腕を伸ばす。
ミカエルはその左腕を上体を屈めて避ける。そしてその左腕はミカエルの後方のビルに突き刺さる。
ミカエルは上体を屈めたまま地面を蹴る。だがその目の前に、BEASTが腕を縮めながら迫ってきていた。
「くっ!」
ミカエルは避けられず、BEASTの一撃を正面から喰らい、後方のビルに身体を埋める。
そのままBEASTは執拗に、ミカエルの腹に拳を打ち続ける。次第にミカエルのコクピットが黄色く染まりだす。

「0号機、腹部装甲ダメージレベル3!シナプスが暴走し始めました!」
「煤原一尉!」
桐嶋の声に、小笠原が叫ぶ。
「…聞こえてるよ…」
九十九は小さく答える。だが管制室では桐嶋が冷や汗を浮かべながら叫ぶ。
「駄目です、シナプスが逆流します!」
「生体インターフェイスカットだ!構わん!一尉、退け!」
小笠原はそう叫びながら、キーボード脇の赤いアクリルの蓋を叩き割る。中には「Extraordinary」と書かれたレバーがあった。
その様子を見た管制室の面々は息を呑み、小笠原の顔を見つめる。そして小笠原は顔を伏せたまま、インカムを耳にあて、震えた声でゆっくりと口を開く。
「総員、速やかに撤退せよ…撤退後は自衛軍の支持に従え。」
小笠原はわなわなと震える腕で、レバーに手を伸ばす。そこに、ミカエルの九十九から通信が入った。
「バカ言ってんじゃねぇよ…まだ負けたわけじゃねぇ…」
ミカエルのコクピットは真っ赤に染まり、アラームがけたたましく鳴り響いている。
「しかしその身体では…」
「このくらいなんでも…ねぇよ…」
九十九は息を切らしながら言う。そして力一杯、レバーを前へ押し込む。
レバーの動きに合わせ、ギシギシと音を立てながら、ミカエルの右腕が突き出される。そしてその腕はゆっくりと、BEASTの頭を掴む。
BEASTは腹を突くのを止め、ミカエルの腕を掴み、引き剥がそうと力を込める。だがミカエルは渾身の力を込め、ゆっくりとBEASTの身体を持ち上げる。
「駄目だ、一尉!シナプスに神経を焼かれるぞ!?」
九十九は応えず、奥歯を噛み締めてただただレバーを押し込む。その間にもシナプスはインターフェイスを逆流し、九十九の神経を刺激する。
九十九はただひたすらに耐え、ミカエルを立ち上がらせる。
「っああああああ!!」
叫びとともにBEASTを投げ飛ばし、右腕を神々しく輝かせる。BEASTもゆっくりと立ち上がり、両目を妖しく光らせる。
そして両者とも地を蹴り駆け出し光の筋となり、轟音と衝撃波を放ち、ぶつかり合う。

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