黒猫の君と白猫の僕(君と私番外編/完結)
[13]思い出は…
自分自身の「どうして」にあの頃の僕は答えを出せなかった。
答えは出せないまま、『まぁこ』はすぐに大きくなった。
猫だから当然だけど…
あの後何回か動物病院に行ったけど、あの子に会うことはなかった。
『まぁこ』は健康優良猫で、病院にかかることそのものがなかった。
だから、動物病院であの子に会うチャンスもなくなった。
それは、学校に行っても同じこと。
探してみたけど、あの子は見つからない。
「まこと」という名前しかわからないから、見つけることができなかった。
探し方が悪いのか、学校にいないのかはわからずじまいだった。
何もかもがわからないまま、時間がすぎてあの子のことを思い出すこともなくなってきていた。
そんなふうに時間を過ごすようになったある日。
僕の目の前にもう一度あの子がやってきた。
それは、小学校5年生の始業式…
少子化のために統廃合になって、少し変わった学校での1日目のことだった。
始業式の日に、4クラスから6クラスにになって同級生が増えた。
あの子もその中にいた。クラスは隣同士。
あの子は背が高くて、カッコイイ女の子になっていた。
背丈順で並ぶ列で、一番後ろに颯爽と立っていた。
あの子だとわかったのは、はにかんだ笑顔。
照れて笑う顔が、小さいころの笑顔の面影を残していた。
でも、わかったところで何も変わらなかった。
「まこと」と呼ばれる彼女との接点は一つもなくて、話すチャンスさえなかった。
それでも、目線は彼女を追い続け…
今に至る…
なんだか、ストーカーじみてる…
我ながら…情けない気もしてきた…
ねぇ、やっぱり思い出さないで。
幼い僕はあまりにもふがいなくて、情けないから…
この出会いの思い出は僕だけの秘密でいい。
今の僕を見てくれればそれでいい。
これからの僕を知ってくれればそれでいい。
君は、少しわがままな僕のかわいい恋人。
僕のキスに翻弄されるかわいい恋人。
「ねぇ、姫野君」
「なに、まこちゃん?」
「姫野君の名前…なんだっけ?」
「智だよ。さ、と、し」
申し訳なさそうに呟く君の耳を軽く噛んで、囁いた。
君はくすぐったそうに、笑った。
あの頃の面影をのこした笑顔で…
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