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負けない!!負け犬【３】～私とＪｒ.と銀時と～《連載中》

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[39]６月１８日(お妙)

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華蓮さんから電話があり、

「美味しいモカが手に入ったの」

と、お茶に誘われた。

私は手土産に、甘めの卵焼きを作って持って行く事にした。

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華蓮さんは学生時代、喫茶店でバイトをしていたという。

その[昔取った杵柄]で、コーヒーを煎れるのがとても上手い。

まずはフィルターに挽きたてのコーヒーを適量入れ、湿らす程度にお湯を流し込み、しばらく蒸らす。

そしてフィルターに沿って周りからお湯を少しずつ、そして絶えず注ぎ続け、カップに一杯になったら出来上がり。

普段ならミルクも砂糖も入れる私だけれども、彼女が煎れるコーヒーはそのままを味わいたいので、何も入れない事にしている。

おっぱいでお腹いっぱいになって眠ってしまった金太郎ちゃんをベッドに寝かせ、ようやく落ち着いた華蓮さんが言った。

「いつも迷惑かけるわね、うちの頭が。」

｢いえいえ。うちの新ちゃんも銀さんにはお世話になりっぱなしで…｣

「え？…あぁ、[頭]って、主人の事じゃなくて、局長。
近藤さんの事ね。」

あ、そっちの[頭]か。

ホント、あのクソゴリラには毎日ストーキングされて、気色悪いったらありゃしない。

「気色悪いでしょ、あのクソゴリラ。」

たった今私が心の中で思っていた事をそのまま言われ、驚いた。

「困ったもんよね。
お妙ちゃんにも申し訳ないとは思ってるんだけどね。」

華蓮さんはお皿の上のチョコレートを口に放り込んだ。

「やっぱりさ、ルックスがいけないのかな？
若い娘ウケしないっていうか…」

ウン、まずそこだと思う。

「具体的にどこをどうイジッたらいいと思う？」

話しを聞いていただけのつもりが、逆に彼女から質問をされ、一瞬戸惑った。

しかし思うままを口にしてみる。

「そうね…

まずはあの脂ぎった顔面かしら。
天ぷらが揚げられるんじゃないかっていうくらいの脂が乗ってるでしょ？
アレは嫌だわ。」

華蓮さんはウンウンと頷いている。

「それから普段着のセンスの無さ。

この間なんてデートのお誘いに来たかと思えば、なんと皮ジャンにピチピチの皮パン履いて来たんですよ！

『お妙さんの好きなＢ'ｚの稲葉風にしました』
って…ナイわ、アレはナイわ。」

華蓮さんはまたウンウンと頷き、コーヒーのおかわりを注いでいる。

「それにすぐ脱ぎたがるでしょ、あの人。

確かにマッチョだけど、私ゴリマッチョより細マッチョ派だから。デストロイヤーより中村獅童だから。

それからあのしつこい性格！

毎日毎日私を追いかけ回して、他の男性を近付けないように追っ払うの。

勘弁して欲しいわよ、全く。

そうそう、あと日が暮れたらうち中の鍵を人知れず閉めてまわるの。

それにね…」

クソゴリラの悪口ならいくらでも湧いて出る。

私は思い付くままマシンガンの如くまくし立てた。

しばらくはウンウンと黙って聞いていた華蓮さんだったが、私が一旦息をついた所で口を開いた。

「ねぇお妙ちゃん、気が付いてる？」

「えっ？」

彼女は微笑みを湛え、ゆっくりとコーヒーを一口飲んだ。

「あなた、近藤さんの事いっぱい知ってるわよね。

毛嫌いしてるはずなのに、彼の事なら絶える事無く溢れ出る。

それがたとえ欠点であろうとも、近藤さんのパーソナリティであることには違いないわ。

どうしてそんなにスラスラと彼の事が出てくるのか…

ストーカー行為をされても被害届を出さないのか…

お妙ちゃん、考えた事ある？」

「えっ、それは…」

あまりに唐突過ぎる質問で答えに窮していた所で、金太郎ちゃんが目を覚まして泣き出した。

「あらあら、起っきしたのね。」

金太郎ちゃんを抱き上げる華蓮さんの背中を眺めながら、私は答えを探していた。

本当だ。

近藤さんの事を嫌っているはずなのに、彼の事なら沢山知っている。

毎日ストーキングされても、被害届を出しに行こうとは一度も思った事はない。

「目が覚めた？」

彼女のその言葉は金太郎ちゃんに向けたものだったのか、それとも私に向けたものだったのだろうか―――。

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