第40章
[67]
さほど探すまでもなく、改札から少し左奥に歩いた先に幅の広い階段の下り口を見つけ、
俺達は下りていった。
「クソ、今まで生きてきて、階段がこんなにも不便だと思ったことはなかったぜ……」
少し離れた最後尾、よたよたと段を下りながらデルビルはぼやく。
まったく、一々うるさい奴め。
「置いていかれたくなければ、つべこべ言わずにさっさと来い」
一足先に下り切った俺は苛々と段上を見上げながら言った。
「う、うるせ、こんな慣れない四足で早く下りるなんて無――」
言葉の途中で足を踏み外し、デルビルはごろごろと階段を転げ落ちてきた。
「う、ぐぐ……ちきしょう。こんな体、もう嫌……」
やれやれ、先が思いやられる。俺は鼻で溜め息をついた。
普段であれば人間がわらわらと騒がしく群れているであろうリニアのホームも、
今は俺達の他には虫一匹の気配も無い。地上に比べ地下の空気はどんよりと淀んで重く感じられ、
元より心許無かった非常灯の光が殊更に弱々しくなって見えた。俺達は線路伝いにホームを歩いていき、
最端まで来た所で落下防止に設けられた柵を乗り越えて線路へと降り立った。
延々と続く地下トンネルのような線路の奥は色濃い闇に沈んでおり、遠い間隔で点々と針先でつついて
出来たようなか細い光がぼんやりと浮かんでいるのが辛うじて見えるだけだ。
「……何だか、嫌な感じ」
近くの壁にそっと触れ、ミミロップが呟く。
「同じ真っ暗でも、イワヤマトンネルとはちょっと違うね」
興味深そうにしながらも、少し不安そうにアブソルは言った。
確かに、自然に開いた洞穴と違い、寸分の狂いも無く均整がとれた人工の通路は無機質でどこか冷たく、
より一層不気味に思えた。だが、こんなところで怖気づいて立ち止まってはいられない。
ミュウツーの目論見を止められなければ、この闇より暗く冷徹な未来が待っているのだから。
「暗闇とはいえ一本道、迷うことは無いと思うが、全員なるべく離れないように行くぞ」
意を決し、俺達は暗闇へと踏み込んでいった。
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