ガイア
[15]ハインリヒ
「はい、あとはオーブンで焼けば完成、っと。」
エプロンを着け、袖を肘まで捲ったミリアが言った。
「やっぱりミリィはうまいね。わたしのなんかこんな…」
ミリアの作ったアップルパイと自分のとを見比べ、セシアはため息を漏らす。決してセシアは料理が苦手なわけではなかったが、ミリアはずば抜けて料理が上手かった。ミリアのものと見比べると、どうしてもやや不格好に見えてしまう。
「形なんて関係ないわよ。料理は愛よ、愛。」
くしくすと笑いながらミリアが言う。
「グレイスなら喜んで食べてくれるわよ。自信を持ちなさい。」
「うん。ありがとう、ミリィ。」
セシアは少しはにかみながら、笑って応えた。
オリュンポスの地下坑道入り口にそびえる大きな隔壁を前に、ビアッジは考え込んでいた。
なぜこんなものがここにあるのか。そしてなぜ、隔壁は下りたのか。
ただ一ついえるのは、バリオスの装備ではこの隔壁は破れない、というこどだけだった。
「グレゴリオ、そちら側の土砂は取り除けんか?」
「マッケンジー君とシャベルで掻き出してますけど…ぃっしょ!大分時間がかかりますね…っこなくそっ!」
「ハンさん、ちょっと来てください!」
シズルが土砂の中で何かを見つけたようだ。シズルはシャベルを置いて、素手で土を払い除ける。
「これって、隔壁の操作盤じゃないですか?」
「かなり古い物みたいだけど…使えるかい?」
「やってみます。工具箱、持ってきてもらってもいいですか?」
「あぁ。」と言って、グレゴリオはクサントスへ走っていった。
グレゴリオが工具箱を持って戻ってきた。シズルはドライバーを取り出し、操作盤の蓋を開ける。トランジスタやコード類が繋がれた電子基盤が顔を出す。
「いつの時代の代物だよ…」
シズルが愚痴をこぼす。不安そうにグレゴリオが声をかけた。
「どうだい?」
「グレイスほどじゃないけど…これでもブライアンゼミの学生ですよ。」
シズルは任せてくれ、と云わんばかりに、自信満々に答えた。
不気味な格好をした者達に囲まれ、グレイスはただ困惑するしかなかった。
「地球…?ここが?」
誰に訊いたわけではないが、グレイスはそう口に出した。するとグレイスの目の前に居る者がマスクを取り、その顔を晒し、言った。
「そう。ここは万物の始祖たる母、地球だ。おっと、自己紹介がまだだったね。わたしはハインリヒ・ヒムラー。ライラック、ご苦労だった。」
ハインリヒと名乗った男にライアックは頭を下げた。そして周りに居た者達もマスクを外す。
グレイスは人垣を見回し、細い声で言った。
「人間…なんですか?」
「我々が猿にでも見えるかね?」
ハインリヒはいやらしく笑いながら言った。グレイスはただ困惑するしかなかった。
「せっかくお越し頂いたんだ。コーヒーでも飲みながら我々についてお話ししよう。―そして、1000年計画の全貌もな。」
ハインリヒはライアックを引き連れ、グレイスを奥の部屋へ案内した。
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