暴走堕天使エンジェルキャリアー


[58]優しい世界


青空に教会の鐘の音が響いていた。
込み合う人影は皆顔を上げ、その手には小さな聖書が握られていた。
その人影の奥に、少年と少女の姿があった。着馴れないドレス姿の少女は、頬を染めながら目を伏せていた。
やがて少年と少女は腕を組み、フラワーシャワーの中を歩いていく。そして少女は後ろを向き、空高くブーケを放り投げた。

「小笠原だ。入るぞ。」
ドアを開けると、ベッドに上体を起こし、窓の外を眺めている九十九の姿があった。九十九は小笠原に振り向くと、優しい笑顔を浮かべる。
「披露宴、どうだった?」
「盛り上がっていたよ。特務隊の全員が列席したからな。―あ、すまない。ついいつもの口調になってしまう。」
小笠原はコホン、と咳払いすると、九十九の隣に腰掛ける。
「てっきりはじめとくっつくと思ってたんだけどな。しかし、こんなに早く結婚するなんてな。晴紀とあやは。」
「特務隊も解散されたから、水無月も家庭に入る決意がついたんだろう。」
「あやに家事ができるとは思えないんだけどな。―あ、それって…」
九十九は小笠原の手元に抱えられた、小さなブーケを見つける。
「あ、ああ。ちょうど私のところに飛んできたんだ。受け取るつもりは無かったんだが…あ、また口調が…」
照れくさそうに目を伏せる小笠原の肩に、九十九は優しく腕をまわす。
「いいよ。時間はたっぷりあるんだから。」
その言葉を聞いて、小笠原は九十九に身体を預ける。そしてゆっくりと、窓のそとに目を遣る。
「東京の再開発もそろそろ終わりだな。―山本しれ…山本五十六の裁判は…」
「特務隊員全員の署名付きの嘆願書を出したんだ。少なくとも極刑は避けられると思うよ。帰教院の話は公にはならないはずだし。」
「そうだな…」
それから二人は何を言うでもなく、ただ寄り添って、窓の外を眺めていた―。

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