第40章


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 苦々しげな語り口からして、何だか二匹の仲は宜しくない様だ。ペルシアンは察し、板挟みにされては厄介だとそれ以上の言及は避けることにした。
「他のお客の話はこれくらいにして、アンタが追ってる本命の事だけどニャ」
 ペルシアンがそう切り出すと、マニューラは一言一句聞き逃すまいと食い入るようにして、注意深くその口の動きを見張る。
「奴を初めて見たのは今から二年前、そろそろ三年になるのかニャ。ヤマブキにあるシルフビルがロケット団って悪党共に占拠された日、あの化物はボクの居た地下道の天井を突き破って落ちて来たのニャ」
 幾多もの鮮血を浴びてきたのだと想起させる赤錆びた真鍮色の山のごとく巨大な体躯。
片方の目は縦に大きく抉られていながらも目蓋の下からは只ならぬ殺気が滲み出、開いている方の目からはほんの一瞥程度に視線が掠っただけだというのに心臓が握り潰されそうな程の威圧を感じた、当時の記憶を話しながらペルシアンはぶるりと身を震わせた。

「そんな一度見たら忘れられないようなキョーレツにアブなそーな奴だったから、ボクも気になっててニャ。
それとなく行き先を調べていたのニャ。また偶然にでも鉢合わせたら嫌だからニャ。
アンタ、奴に相当な恨みがありそうなのは分かるけれど、ちょっと相手が悪すぎるんじゃないかニャ。
……もしもボクがアンタや、特に例のお客と同じ立場だったとしたら、直接挑むような真似はしないニャ。
やるなら、まず代わりの捨て駒を見繕ってから――」
「御託はいい。さっさと行き先を言え」
 鋭い氷片が体すれすれを過ぎ去って木に突き立ったのを横目で見、ペルシアンは仕方なさそうに息を吐く。

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