第40章


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 やる気を出してくれたのはいいが、あまりの変わり様に不気味とすら感じざるを得ない。
「……一体何を吹き込んだ」
 俺はそっとミミロップに聞いてみる。
「別にー。似たような茨の道を行こうとしている仲間に、先輩としてちょっとアドバイスしただけ」
「茨の道……? 何だ、どういう意味だ?」
「いーの!早くいってよ、もう」
 急に不機嫌になって、ミミロップは俺の背中をどんと押した。……分けが分からぬ。

 ・

 俺は一足先に単独で駅内部へと忍び込むと、息と足音を潜めて駅員のいる部屋まで近寄り、
窓口の下に潜り込んだ。物音を立てぬように気を払いながら、ゆっくりと道具袋から眠り粉の包みを取り出し、
そっと封を開ける。細かい粒子が立ち昇る包みを開け放しの窓の方へと掲げ、フッと息を吹きかけて送り込んだ。
素早くマントで口と鼻を覆い、待つこと数秒。部屋の中からくしゃみの音が一度響き、すぐに大きないびきへと変わった。
なるほど、インドぞうもいちころと自負するだけある。感心しながら、余った粉を大事に包み直して道具袋にしまった。
もう一度くらいなら使えそうだ。いざという時に使わせてもらおう。
 俺は部屋を覗き込み、机に突っ伏して眠り込んでいる駅員の姿を確認してから、外から様子を見守っている仲間達に
『来い』と手で指示を出した。
「中々の手際だな。なあ、アンタ、俺が人間に戻ったら組まねえか?いい生活ができると思うぜ、へへへ」
 駆け寄ってきたデルビルが愉快そうに声をかけてくる。
「お断りだ」
 すげなく一蹴し、俺は見張る者がいなくなった改札機を堂々と乗り越えた。さあ、地下に降りる階段を探して向かおう。

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