本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@
[33]chapter:9-2
「ヴァンくん...だったか...」
「は、はい...!」
「君、歳(とし)はいくつだ?」
「歳...多分、15くらい...かなぁ...?」
「くらい?」
ヴァンは8年前に身元も分からなくシリウスに拾われたため、自分の正確な年齢を知らなかった。
「あ..その..僕...」
「ふぅ...」
ラルは横でため息をつくと、ヴァンに代わってここ数日の経緯を話し始めた。
「...」
ラルは全てを話した。
ラルに与えられた任務のこと。ヴァンのこと。そしてシリウスの一件。
ラルが説明する横で、ヴァンは黙って聞いていた。
ラルの話が終わると、エドワードは目をつむったまま考えこんだ。
「なるほど...」
エドワードは一言そう言うと少し間を置き、また口を開いた。
「君のお義兄さんが『ファウスト』になってしまったのか...」
「ファ...ファウスト?」
初めて聞く言葉にヴァンは聞き返した。
「咎人(とがびと)の俗称のことだ。と言っても、ユスティティアの中でしか使わないがな」
「咎人...」
「ジョージ=ファウスト」
ラルが突然口を開いた。
「約350年前に実在したといわれ、禁忌を犯した人物の代表的な名前だ。私達はそのファウストから名前をとり、現代で禁忌を犯した者達を俗称で、『ファウスト』、と呼ぶんだ」
「..兄さんも...」
「悪魔召還、その上に契約の儀式。どちらも禁忌だ」
ヴァンは黙り込んだ。
「そうだ。准将に見て頂きたいものが」
「ん?なんだ?」
「ヴァンくん」
「は、ははいぃ!?」
「フードの下の髪を見てもらおう」
「は、はい...」
ヴァンはあまり気が進まなかった。
髪を気にしているのは別に突然現れた赤い模様に始まったわけではなく、元々この白髪のせいで昔からヴァンは人に見せるのが嫌であった。
しかし、ラルの命令を断れるわけもなく、ヴァンは渋々と頭のフードを取った。
幼さの残る少年の顔に似合わない白髪があらわになった。そしてその髪には円を描いたような赤色の波線が浮かんでいる。
「これは...」
エドワードは神妙な顔つきでヴァンの髪を見た。
「悪魔の腕の返り血でこうなったのか...何か心当たりはありませんか?」
エドワードは顎に手を当てて考え込んだ。
「白髪...」
「はい?」
「ん、いや。その白髪は?」
「あ...む..昔から...ずっと白髪で...お..お医者さんも病気ではなくて地毛だって...」
「白い髪か..まるで大賢者のようだな」
「大賢者?」
「ああ、『紅き夜の七日間』という話を知っているか?」
ヴァンが首を横に振ると、エドワードは立ち上がり、隅の本棚へと向かい一冊の本を手に取った。
エドワードはその本をヴァンの前に差し出した。
「いい機会だから読んでみるといい。ラル、まだヴァンくんにはこの話を聞かせていないんだろう?」
「はい」
「なら、なおさらだ」
ヴァンはエドワードから本を受け取った。
年期のはいった本だ。長らく読まれていなかったのか、端には誇りがこびりついている。
ページ数はそんなにないようだが、かなり固い紙でできており、見た目に反してかなり重い。
赤い表紙には金色の文字で、「紅き夜の七日間」と書かれていた。
「短い話だ。ちょっと読んでみるといい」と、エドワード。
髪の赤い模様について話していたのだが、この本が何か関係があるのだろうか。
ヴァンはおもむろに表紙をめくった。
挿し絵があり、その隅に短い文章が添えられている。どうやらこの本は絵本らしい。
古すぎて紙が焼けてしまっており黄ばんでいる。
1ページ目には白い服をまとった人が一人の子供の手を握りながら、読者に背を向けて立っている絵が描かれている。
何か不思議な気分にさせられる絵だ。
最初の文は絵本の決まり文句、『これはとても昔...大昔のはなし...』と書かれて始まっている。
ヴァンは次のページをめくり読み進めた。
『ある大国に偉大な魔法使いがいました』
『その不思議な力に民は魅せられ魔法使いは「東の大賢者」と呼ばれるようにまでなりました』
『しかしある時、東の大賢者の強大な力を悪用しようとする者が現れました』
『その者は東の大賢者と同じく強大な魔法を持ち民からは「西の大賢者」と呼ばれていました』
『良識ある東の大賢者はもちろん西の大賢者の考えを受け入れるわけはありません』
『二人はついに戦うことになります』
『ぶつかり合う二つの強大な魔法』
『二人の戦いは天を割り、地を砕き、海を裂きました』
『二人の戦いは七日七晩続きました』
『七日目になった時、二人の戦いにより世界は滅びかけていました』
『民は死に、大国の王も死にました』
『東の大賢者は血の涙を流して悲しみました』
顔は見えないが、白い服をまとった人が顔に両手を当てて座りこんでいる絵が描かれている。
多分最初のページの人物だろう。
手の部分は赤く染まっている。
文章から察するに血だろうか。
その人の周りには『何か』が沢山横たわっている。人の形にも見えるが、所々黒く塗り潰されていてよく分からない。
ヴァンは少し気分が悪くなったが、次のページをめくった。
『それでも西の大賢者は戦いを止めようとしません』
『しかし二人共もう力は限界でした』
『そして東の賢者は最後の力を振り絞り壮大な紅き光を放ちました』
『何が起きたのか、何をしたのか』
『それは誰にも分かりませんでした』
『ただ一つ言えるのは、ついにこの時戦いは終わりを迎えたということでした』
『世界には東の大賢者は消え、西の大賢者だけが残りました』
『この二人の世界を巻き込んだ巨大な戦いを「紅き夜の七日間」と銘打ちました』
最後は黒い服をまとった人が真っ白なページの中に一人描かれて終わっていた。
なんとも虚無感の残る終わりかただ。
「読み終えたか?」
「は、はい」
ヴァンは返事をしながらエドワードに絵本を返した。
「世界は一度滅んだという昔話だ」
「は、はぁ…」
いまだにこの絵本を読ませた理由が分からない。
「この話に西の大賢者というのが出てきたろう?」
確か東の大賢者の力を悪用しようとしたやつだ。
「ある説ではその西の大賢者も髪が白かったと言われている」
「そうなのですか?」
ヴァンがその言葉を口に出す前にラルが口にした。
「一説でしかないからな。なんとも言えんが…その白髪が気になってな…」
「あ...あの...この赤い模様については...?」
「ああ、分からん」
「......」
顔を歪ませるヴァンにラルが加えた。
「ヴァンくん、この話はユスティティアと深い関係があるんだ」
「へ...?」
「ユスティティアにこの二人の大賢者の末裔がいる」
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