本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@


[27]chapter:8 大工業都市「グリムシティ」


森を歩き続け、二日が経った。
四方を見渡しても、あるのは木ばかり。ヴァンは慣れない競歩で疲弊しきっていた。その上午前中はラルとの猛烈な訓練。それがさらにヴァンの足取りを重くさせていた。
 
「ゼェ...ゼェ..つ..疲れた...」
目の前を進むラルには疲れが一切見えない。
 
――女性なのに…すごいよな……
 
ヴァンは感嘆した。
 
「着いたぞ」
「え?」
 
ラルの一声にヴァンは顔を見上げた。
 
いつの間にかヴァン達は森を抜けていた。そして目の前に広がる光景は。
 
「す...すっごい...」
「ここが大工業都市、『グリムシティ』だ」
 
あまりにも壮大な光景。いや、見慣れた人にはそうでもないのだろうか。
だが田舎暮らしのヴァンにとって目の前に広がる光景は胸をを踊らせた。
 
馬鹿でかい大通り。その道沿いに並ぶまた大きな家。下では商い人が声を張り上げて商売をしている。
どれもこれもがヴァンにとって初めての光景であった。
 
「すごい!すごいですよラルさん!!」
「まぁここはこの国、ファルガナ共和国の中でも群をぬく巨大工業都市だからな」
 
工業都市。言われてみれば都市のいたるところに煙突が見える。
 
「さて、こんなところで道草をくってるわけにはいかない。すぐ出発するぞ」
「えー!!」
「..ギロ...」
「ひ...」
 
ラルに睨まれ渋々とヴァンはついていった。
 
「ふぅ..ユスティティアの本部がある『トゥーワイズ』は工業都市というわけではないがここの数倍は大きいんだぞ?」
「は..はい...」
 
それでもヴァンは浮かない顔をした。はやる気持ちを抑えきれず、足がウズウズしている。
 
「...ハァ..しょうがないな...ホントは駅まで送ってから行くつもりだったんだが...」
「はい?」
「私は少し用事があって別の所に向かう。駅はこの大通りを真っ直ぐ進めばあるから大丈夫だろう。そこの3両目に乗りなさい。分かったか?3両目だぞ?」
「そ..それはつまり?」
「駅までの道なら自由に見回っていいぞ..」
「ぃやったー!!」
 
ヴァンは目を輝かせて走っていった。
 
「まったく...私は保護者か...さっきまで疲れ切ってたくせに..」
ラルはふっと笑みをこぼした。
 
 
 
 
 
 
 
 
「す..すごい...」
 
ヴァンは見るもの見るものに目を光らせて喜んだ。どれを見ても村にはなかったものばかり。
 
「お!見ない顔だねぇ!」
商い人のひげをはやしたおじさんがヴァンに話しかけてきた。
「あ..はい...さっききたばかりで」
「なんだい観光客かい?」
「まぁ、そんな感じで」
 
人見知りなヴァンはとりあえず適当にあしらうことにした。
「どうだい?何かお土産に」
「ああ...(お金無いしなぁ...)..じゃ..じゃあ、これはなんですか?」
 
ヴァンはとりあえず、とってのついた箱を指差して聞いてみた。
 
「お!いい目してるねぇ!これは最近入荷したばかりで『蓄音機』っていうんだ」
「蓄音機...?」
「これは不思議な機械でなぁ、音や声を録音できるんだ!」
「ろ..録音...!.......って何?」
「こいつに音を聴かせるとそれを繰り返してくれるのさ」
「そ..それはスゴイじゃないですか!!」
 
ヴァンは身を乗り出した。
「それじゃこれは...!」
「それは『テルミン』って言ってねぇ..」
「これは!」
ヴァンは次から次へと質問を繰り返した。
 
「おいおい、坊主。そんなにいっぺんに聞かれてもおじさん答えきれないぞ」
「あ、すみません...初めて見るものばかりで...」
「どこから来たんだい?」
「え..と、カルナ村ってところからです...」
「きかない名だねぇ」
 
それはそうだろう。カルナ村はホントに小さい村だ。
 
「どっかの民族かい?」
 
民族ではない。
 
「そのターバンみたいなの巻いてさぁ」
「あ、これは...しゅ..趣味です...」
「変わってるねぇ...その肩にかけてるものはなんだい?」
 
おじさんはヴァンの肩にかける布で巻かれた剣を指差した。
 
「あ、これは...」
 
ヴァンは誰にも見せてはいけないというラルの言葉を思い出した。
 
――バレたなんていったら絶対殺される…!
 
「まさか剣とかじゃないだろうね?」
「ええ!?違います!!違います!!違います!!」
 
予想もしない鋭さにヴァンは慌ててしまった。
 
「そりゃそうだよなぁ、こんな子供がそんなもの持ってるわけないわな」
おじさんがすぐに引いてくれてヴァンは一安心した。
 
「いや悪いね。最近ここら辺で人斬りの事件があってね」
「人斬り?」
ヴァンは身をすぼめた。
 
「そうさ。しかも殺されかたがまたひどくてね...」
「ああいいです!いいです!」
「なんだ、肝が小さいね。まぁ君も気をつけな」
「ま、まぁ、すぐここはでちゃうんで」
「へぇ、そうなんかい」
「おじちゃん」
「わ!」
 
いつの間にか隣に車椅子にのった少女がいてヴァンは飛び上がった。
 
「よぉ、マリーちゃん。元気そうだね」
「うん!おじちゃんも元気?」
「ああ元気だよ」
「あら?お兄ちゃん誰?ここら辺では見かけないね」
「あ、ぼ..僕は...」
 
人見知りの上に女性免疫0のヴァンは、相手が少女だというのに身じろいでしまった。
少女は10才から12才ぐらいだろうか。両手には布に包まれたなにかを持っている。
ピンク色のリボンのついた麦わら帽子に、足元まで覆い隠す長い赤色のブラウスを着ている。
麦わら帽子からはくるみ色のふわっとした髪をのぞかせ可愛い顔をしていた。
その可愛い顔がよけいにヴァンの身をひかせる。
 
「観光客だとよ」
「へぇ、ようこそ『グリムシティ』へ。私はマリー=ウィリアムズ。よろしくね」
 
マリーは笑顔でそう言った。
「よ..よろしく...」
 
「ところでなんの用だい?」と、おじさん。
「そうだおじちゃん。これが壊れちゃったの」
マリーはそう言いながら手の荷物をおじさんに差し出した。
 
「おお、これか。どれどれ...」
「...?」
 
 
 
パッ!
「...え?」
 
 
それは一瞬の出来事だった。
 
「これ!もらうヨ!」
「な...!」
 
肩の剣がない。
 
横を見るとヴァンの剣を手に持った少年が大通りを走っている。
 
「う...そ...」
 
エクスキューショナー・ソードが、
 
 
 
 
盗まれた。

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