第三章 迷い〜そして戦場へ〜


[26]第六二話



「やはりアレでは歯がたたないようですな」

「クック……それは仕方ないことだ。それよりもシェライク」

「はっ。仰せのままに」






◇◆◇◆◇◆◇◆






目の前には天まで伸びる巨大な一条の光。
マグナムを握る手が震えているのは気のせいではないのだろう。


「ネル……今助けに行くぞ」


 如月が光の柱を睨み、歩を進めようとしたその時、


「っ……!?」


足元の土が、小さくだが抉れた。


「何があっても行かせない、という事か」


 如月は深く息を吸い込むと、両足に力を込めた。




 “扉”まで約120m。


 敵は消音器を取り付けた狙撃銃で武装しているのは間違いない。



 一か八か……賭けにでるしかない。





 地面を強く蹴り上げた。



 直後、魔力の弾丸が頬をかすめ、血が滲み出る。


 そんな事はおかまいなしと、防御もせず如月はただひたすら一直線に駆けていた。


「っと……」


 “扉”まであと60mというところで如月は立ち止まる。




 敵の気配が明らかに変化したのだ。


「狙撃手を含めて二人……。この気配の隠し方、相当な腕の持ち主か……?」

「クックック。ご名答、黒衣の少年よ」


 如月が背後を振り返ると、そこには中世ヨーロッパの貴族が身に着けていたような服を着た男が立っていた。


「あんたが首謀者ってことか……」

「その通りだ……。我が名はヴェリミエッタ。二つの世界を征する者だ」

「…………」


 如月は無言で貴族風の男を睨む。
 この男、隙が全く見当たらない……。


「鍵は見つかり、“扉”は開かれた。だが、ドゥグーラは完全な覚醒を迎えていない。今日は出来事はほんの挨拶がわり……これでお別れだ」

『待て! 貴様、禁忌を何に使うつもりだ!』


 立ち去ろうとするヴェリミエッタに、アストラルが呼び止めるように尋ねる。
 だが、ヴェリミエッタは振り返ることもなく、ただ一言。


「二つの世界を我が物にする手段であり道具だ」


 そう言い残すと如月の脇を通り過ぎ、光の柱へと歩き始めた。

 狙撃手のシェライクが途中から加わり、如月に銃を向け、警戒は怠らない。
 何よりもヴェリミエッタ自身から醸し出される雰囲気そのものが、如月の本能にこう警告を与えていた。


 命惜しくば手出しはするな。


 やがて彼らが光の柱の中へ入り込むと、輝きが一段と増し、ガラスの破片が飛び散るように柱が弾けた。

 そして、空からゆっくりと舞い降りるように落ちる人影。


 間違なく、それはネルフェニビアだ。

 如月は一目散に駆け出し、降下しているネルを自身の腕で抱き留めた。


「息は、しているな…………よかった……」


 がくり、と膝をつき安堵の溜め息をつく如月。

 それに気付いたのか、ネルがうっすらと目を開けた。


「ここは……? 曜、君……?」

「ああ、俺だ。大丈夫だから、もう少し眠っていろ」

「うん…………ありがとう………………」


 そう呟くと、ネルは再び目を閉じた。

 彼女の穏やかな寝顔を見つめる如月の目は真剣だった。



 人を道具のように扱ってまでして、一体どんな陰謀が進められているというのか。


「アストラル、後で聞きたいことがある」

『いいだろう。事態はそう楽観視できるものではないことが分かったからな』


 救援に来たと思われるヘリコプターのローター音が遠くから聞こえてきていた。






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