第三章 迷い〜そして戦場へ〜


[23]第五九話



「ククク…………始まったか、雷撃の姫と黒衣の少年との戦いが」


 不可視の魔法で姿を消したヴェリミエッタは空中から戦闘の様子を傍観していた。





 彼の脇にはシェライクが頭を垂れて控えている。



 しかしその手には魔力を源とする銃が握られ、近付く敵をいつでも殺せるようになっていた。


「さあ、しばらくこの宴を楽しもうか」






◇◆◇◆◇◆◇◆






 何度もくぐもった爆発と揺れが地下司令部を襲う最中、それは突然起こった。


「これは…………衛星軌道上に待機していた航宙艦より緊急連絡です! 太陽系外から地球に向かって高密度エネルギー体が急速接近中! 着弾予測地点は…………戦闘地域一帯です!!」

「なにっ!?」


 想定外の事態に慶喜は思わず戸惑った。
 戦闘に関する情報が刻一刻と更新されるなか、さらに新たな情報が付け加えられる。


「着弾まで後十五分です! エネルギー密度はクラス四。現在目標はアステロイド帯を突破! 火星軌道上に急速接近中!」

「地球宇宙軍三〇二部隊に長距離火砲発射命令が下されました!」

「着弾地点付近で戦闘中の全部隊へ通達! 十三分後には安全圏へ撤退せよ!」

「了解!」


 慶喜は苦虫を噛み潰したような顔をしながら命令を出した。






 なぜ宇宙空間からの攻撃が起きたのか。




 考えられる可能性は幾つかある。信じたくも考えたくもない理論上可能な説明があった。


「まさか……本当にもう一つの世界はこの次元に存在していたのか……?」


 慶喜は自問するように呟く。



 強く握り締められた彼の手は震えていた。恐怖と驚愕が胸の内で膨れ上がったのだ。





 そのせいで判断に失敗が生じた。


「こ、高密度エネルギー体が空間跳躍しました! 大気圏へ突入!」

「着弾地点の予測完了。エリア零、中央部です!」

「着弾まで残り一二秒!」

「如月大臣、何を血迷っているのですか。早く指示を……!!」


 防衛庁から派遣された幹部が苛立ちを露にするが、慶喜は数秒遅れて意識が戻った。



 素早く状況を判断すると、




「撤退しつつ各員は結界を展開し生命の確保だ!」


 それだけでは間に合わないと知りつつも、少ない可能性にかける慶喜。



 無謀だと言われても仕方ないが実際のところはこれしか策がない。
 場所によっては生き残れる確率はさらに上がるのだから。


「高密度エネルギー体、着弾!」


 オペレーターが告げると同時に衝撃波が慶喜達を襲った。



 外部の様子を映していた映像がノイズで灰色と雑音に染まる。


「状況不明! 各部隊との通信がとれません!」

「衝撃の余波で電波障害が発生。通信機器がダウンしています」

「衛星軌道上に待機している観測隊から現場の粒子分布が送られました。解析映像、出ます」


 灰色の嵐が吹きすさぶ主モニターが戦闘地域の地図を映し出し、粒子の密度が小さい方から青から赤へ色が変化している分布図が現れた。




 着弾した箇所を中心に密度が赤から青へ放射状に拡散している。


 しかしその中心は何故か無色のままだ。


「着弾点の密度がゼロ……どういう事だ?」


 慶喜はいぶかしむ。





 この粒子分布はエネルギーの残滓の拡散状態を示している。




 中心部に近ければ近いほど密度は高まり、そこから時間をかけて周囲へ散っていく。



 その当たり前の事実に反しているのはおかしい。

 誰かが何かをしたのだろうか。


 …………誰かが?


「如月耀が最後に確認された位置と着弾点の正確な場所はどこだ」

「如月耀の最終確認地点はエリア零、“扉”の付近です。着弾点はそこから約一km南に離れた場所です」


 慶喜の問いにオペレーターがすぐさま応じた。




 短く唸り、慶喜は考える。





 粒子の拡散度合いと息子の居場所から、もしかしたらという案が思い浮かぶ。



 だがあれほどのエネルギー、クラス四の密度を防ぐ術を持っているだろうか。


 昨日今日に契約したからとそこまで強い力を持てるわけがない。たとえ最強の幻獣神と契約しても、だ。


「着弾点周辺部の映像を急げ。観測スフィアを使っても構わん。あと現在の陣形の詳細を頼む」

「了解しました!」







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