第40章


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 左耳の先を襲う、尖った何かで挟み込まれたような激痛。
「むぎゃぁーッ!」
 取り巻いていた眠気など微塵もなく砕け散り、喉から叫び声と共に吹っ飛んでいった。
俺は痛みと黒い手の内から逃れようとじたじたと暴れ、放電しようと頬に電気を集める。
「おおっと」
 充電しきる前に手の主は俺を放り、ひょいと身を離した。
俺はぜえぜえと息を切らしながら、左耳の先が食いちぎられていやしないか恐る恐る確認する。
まだちゃんと付いている、ほっと息を整えてから、俺は痛みの元凶を睨みつけた。
「何のつもりだ、貴様ァ!」
「何って、もうテメーで決めてた出発の時間を過ぎそうだってのに、どんなに声掛けても揺すっても、
起きやがりゃしねーお寝坊さんに、熱ーい目覚めのキッス代わりをくれてやっただけさ」
 鋭い牙を見せ付けるように、マニューラはにやりと笑う。先に起きていた他の者達も、くすくすと笑った。
「う、む……」
 俺はそれ以上何も言えなくなり、ばつの悪さを誤魔化すようにしてマントの埃を払って立ち上がる。
「それにしても、どんないい夢見てたんだよ? 随分締まりなくへらへらしてやがったぜ、ヒャハハ」
「うるさい、そんなこと覚えておらぬわ」
 目覚めの衝撃に掻っ攫われ、夢の内容なんて殆ど何も覚えちゃいない。残っているのは、
この左耳の先のろくでもない痛みだけ。まったく、最悪の寝起きだ。

 こうして、一時の休憩を終えた俺達は、再び暗いトンネルをジョウトに向かって歩き出した。
騒がしい同行者が増えた以外に、まったく代わり映えのしない地下道を進むこと数時間。
一体、今どの辺りまで来ているのだろうか。太陽の光が、いい加減恋しくてたまらない。
そんな風に考えながら緩やかなカーブを抜けた矢先の事、暗雲のように立ち込める闇の先に、
一番星の如く輝く一点の光を見つける。こんなに離れていても、人工の弱々しい光とは力強さがまるで
違って感じる――間違いない、あれは外の光だ!


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