第36章
[12]
※
身を包む冷たい空気に震えながら、ロゼリアは洞窟の一室の隅に縮こまっていた。
スボミーであった時と比べて寒さに多少は強くなったとはいえ、
キッサキの外気よりは幾らかましだという程度のニューラ達の巣窟で寝起きをするには辛いものがある。
強情を張らず、もう少し後先を考えればよかった。ふつふつと後悔の念がロゼリアの心に浮かぶ。
体の芯まで凍えきりそうになっていた時、どさりと部屋の入り口の方で何か重い物を雑に落とす音が響く。
ロゼリアが見上げてみると、一匹の雄ニューラがしかめ面をして立っていた。
巣穴に来た時ロゼリアに一番ちょっかいを出してきたニューラだ。
用件を尋ねる前に、ニューラは引き摺ってきた袋をぶつけるようにニューラはロゼリアに渡す。
「お荷物の荷物だってよ。木の実取りに行ったらついでに持たされて余計重かったっつの。あの糞カラスめ」
やっとの思いで袋の下から這い出し、ロゼリアは袋を確認した。
中身は数冊の本とヤチェの実、そしてまだスボミーだった時にキッサキに行く際、
使っていたカプセル温室が入っている。少し小さいが、まだ何とか使うことができそうだ。
ドンカラスの気遣いにロゼリアは深く感激するばかりだった。
部屋を出ていこうとするニューラに礼を言おうとロゼリアは顔を上げると、
ニューラが小脇に輝く石を抱えていることに気付く。それは前にロゼリアがミミロップから貰った石にとてもよく似ていた。
「それ、僕のものじゃあないですか……?」
恐る恐るロゼリアは尋ねる。
「あん? これはそこらで拾ったんだっつーの。欲しけりゃ力付くで取ってみやがれ」
ニューラは爪を長く伸ばして振り返り、声を荒げて凄む。その態度であれは自分の物だった石だとロゼリアは確信した。
しかし、ニューラの鋭い目付きと爪に体は竦み、動くことも言い返す事すらもできない。
そんなロゼリアの様子を見てニューラは小馬鹿にするように鼻を鳴らし、悠々と部屋を後にする。
一匹になると、ロゼリアはふらふらと隅に寄り掛かり、しゃがみこんだ。
堪えようと幾ら口を噛み締めても、自分の腑甲斐なさ、悔しさに頬を伝うものが止まらなかった。
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