第39章


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 「そんなだから、うまく伝えられなくて……。今回のことだってそう。きっともうひとりのボクは、自分だけじゃなくてギラティナさん達を自由にしてあげたかったんだと思う。
ぶっきらぼうだから、今度もまた何もかも放り捨てちゃったみたいに見えても仕方ないけど……」
 後ろ足で立ち上がり、アブソルはぱたぱたと前足を大きく広げて身振り手振り、
一生懸命に何かを伝えようとする。
「世界ってね、こんなに大きくて、すごく綺麗で、辛いことも同じくらいあるけれど、とっても楽しいんだよ。
空の上とか、裏側からとか、時間の隙間からお仕事で覗いて見るだけじゃ物足りないし、見逃しちゃう。
だから、ギラティナさん達にも実際に見て、何にも邪魔されずに歩いて、感じて欲しかったんだと思うん、だ――うわわ」
 後ろ足のバランスを崩し、よろめくアブソルにすかさず俺は駆け寄って支えた。
「まったく、四足歩行が無理をするでない」
「ごめん、ありがと」
 体勢を直して気恥ずかしそうに礼を言うアブソルから手を離し、俺は沈黙するギラティナを見上げる。
「……子はやがて成長し、親の手を離れ己の足で歩んでいく。頼りなげだといつまでも繋いでいては、思わぬ力に互いに振り回されて、かえって邪魔にすらなりうる。もう世界は少しくらいよろけようと、俺が、俺だけじゃない世界に生きる者達一人ひとりが支え、起き上がれる。起き上がらせて見せる。
次はお前の番だぞ、ギラティナ。最早、枷は無い。恐れずに歩んでみせよ、新たな道を」

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