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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[50]７月１日( 〃 )

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近藤さんの運転する護送車の助手席に座り、私は降り続く長雨を眺めていた。

四方をカーテンで遮られた最後部座席にはかよ姫と竹内殿が手を握り合い、通じ合えた喜びを噛みしめながらも、刻一刻と迫る別れの時を惜しむように寄り添っている。

二人は言葉を交わさない。

交わせば交わしただけ、離れられなくなる事を知っているから。

私達は今、残酷な結末に向かって車を走らせている。

もう後戻りは出来ない。

・―・―・―・―・―・

旅館はロイヤルファミリーの貸し切りの為、客はもちろんの事、下級従業員も取り払われていた。

よほどの用が無い限りは、上の従業員も顔を出さない。

一夜限りの完全なる二人の世界。

私達真選組は外周を取り締まる。

二人のもろく小さな世界を護る為…。

｢華蓮さん、オレ達ものすごく罪なお手伝いしてるんだよね、きっと。｣

裏の山高くに昇る雨上がりの月に照らされた近藤さんが呟く。

｢そうですね。｣

だからと言ってお断りなど出来るはずもない、私達は悲しくも愚直な公僕。

お二人は今頃最初で最後の逢瀬にふるえている事だろう。

一瞬をも無駄には出来ない切なさを胸に、ただひたすらに互いを求め、ただひたすらに愛し合う。

果てる直前のロウソクが燃え盛るかのように。

♪ピロリンリン…

私のものではないケータイの音がした。

近藤さんの胸ポケットから鳴り響いている。

｢ん？誰だ、この番号…

もしもし近藤ですが。

…あぁ、万事屋か！｣

電話の相手は銀時だったようだ。

敢えて私ではなく近藤さんにかけるなんて、どういう風の吹き回しだろう？

｢うん、うん…

…何だって！ソレ本当か!?

確証はあるんだな。ヨシ分かった。

ありがとう。恩にきるぞ！

じゃあな。｣

話し終え、ケータイを閉じた近藤さんは急いで四役に召集をかけた。

｢意外にも将軍様が、人知れず万事屋に竹内殿の身辺調査を御依頼なさっていたそうだ。

その結果、大変な事実と物証が発見された。｣

近藤さんの真剣な眼差しに、私達は固唾を飲んだ。

｢将軍のお祖父様にあたられる前々将軍様が、昔鷹狩りにお出掛けになった際、山で家臣達とはぐれてしまわれたそうだ。

その時に、お世話をしたのが竹内殿のお祖父様だった。

そして将軍様はお帰りの際、お礼としてある文書を残して行かれた。

それには…

『竹内家子孫と我が将軍家子孫に婚姻をもたらす』

とあったらしい。

だけど勿体な過ぎるお言葉に、お祖父様はこの文書について家族の誰にも話さず、押し入れの奥に隠してしまった。

その為、これが見つかったのはごく最近なのだそうだ。

つまり、その文書の効力さえ発揮出来ればお二人は…｣

結論を言いかけたその時、今度は私のケータイが鳴った。

かよ姫からのメールだ。

ボタンを押して画面を開くと、そこにはたった一行だけの、短い文があった。

『ありがとう。さようなら。』

日頃高飛車を絵に描いたようなかよ姫が、『ありがとう。』だなんて。

それも『さようなら。』がついている。

…これは…!!

｢大変です、近藤さん！

二人が…

二人が心中を図ろうとしています!!｣

｢何!?｣

近藤さんの指示を聞く間もなく、私は土足のまま二人の部屋へ駆け出した。

間に合って！

お願いだから二人を死なせないで!!

せっかく一緒になれる手立てがあったのよ。

それなのに死ぬなんてバカらしい!!

｢姫!!｣

鍵のかかった部屋のドアを足で蹴破り、急いで中へ入ると、二人は血溜まりとなった布団の上に座り込み、カミソリの刃を手首にあてていた。

｢何バカな事してるのよ、二人共!!｣

カミソリを取り上げると、それを抗う力も残っていなかったようで難なく奪い取れた。

いち早く止血をしようと二人の腕を心臓より高い位置に持ち上げ、首のスカーフをほどいて圧迫止血を施す。

後から追いかけて来た近藤さんが状況を把握し、すぐに救急車を手配してくれたので早急に病院へ搬送出来るはずだ。

頭の中が混乱しているのか呆然と座ったままのかよ姫と竹内殿を落ち着かせる為に、先程の吉報を知らせた。

｢華蓮…それはまことか？｣

多量の出血で意識朦朧としながらも、かよ姫は笑みを浮かべた。

｢それがまことなら、私はかよ姫と夫婦となれるのですね。

…夢のようだ…。｣

二人は手を取り合い、喜び、涙した。

・―・―・―・―・―・

二人は救急車で搬送された。

将軍様より警護の命令も解除され、私達はまた江戸へ向かって車を走らせる。

次に将軍様より警護の命令が下る時は、かよ姫と竹内殿の結婚式だろうか。

空には朝日が昇り、緑の木々から滴る朝露たちを輝かせていた。

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