〜第4章〜 黒の男
[18]夕方6時20分
「……く……相沢……ん!」
また目が覚める。
学校の屋上に戻っていた。なんで、寝てたんだっけ?そうか、パルスにボコボコに去れて気を失ったんだな。
ハレンが視界に飛込む。
あれ?
いつも明るいハレンが、ぱあって笑ってない。
なんか、ものすごくホッとした顔だ。
「相沢くん……相沢くんって……!」
「なに、何があったんだ?ハレン、パルス?」
《ユウ》
パルスは、かなり真剣な声で言っている。
《余りにも不自然です。いくらタイムトラベラーの素質があるといっても、ここまでになると余りにも……! まるで【別人格】のようでした》
「え? 全く記憶にないんだけど、一体何が?」
《…やはり覚えていないのですね。貴方はさっき、私は勿論、ハレンやセイナでさえも越える力をだしていました。それは、そう……人間の体を限界まで高めて……》
「え?」
僕は……勝ったのか?
《ユウ、今からいくつか、重要な質問をします。正直に答えてください》
「う……うん」
《時間が……視えたのですか?》
「時間が視えるって、なんのことさ?」
《確かに貴方は言いました。『時間が視えた』と》
時間……?
微かに残る記憶を繋ぎ併せてみる。
僕は……なんだ。
何かが見えたような。
……そうだ、ちょっとだけ思い出した。
緑色の、点
小さな点が周囲に散らばり浮かび漂っていた光景を、まるで別人が見たかのように曖昧な思考で思い起こす。
「なんか、緑色の点が、見えた……ような」
《それです、なんということでしょう、ユウ……》
「あ……相沢くん、時間が視えたって、それって……」
ハレンまで驚きを隠せないらしい。
「なあ、二人とも驚いてるけど一体何のことだ? 何が驚くようなこと、あったか? 時間が視えるのって、皆できることだろ?」
《……時間が視える、というタイムトラベラーは、過去に二人いました》
パルスが語り始めた。
《10年前のことです。日時は、1997年6月10日……。
その時間、ネブラが突如大量発生し、あの「滅び」がまさに現実になりかけたのです》
……!
「滅びって、最初に見せてくれたあの滅びってやつか?」
《そうです。私達タイムトラベラーはその頃たくさんいました。しかし、ネブラの力は余りにも強大で、その滅びの到来は避けられないと思われました》
「じゃ……じゃあ、何で今は?」
《あるタイムトラベラーの2人組が、10年前に現れました。その2人組は、一人は男性で一人は女性である以上のことは不明で、名前も素性も分かりません。しかし、その二人組の活躍により、私達タイムトラベラーは勝利を手にして、『時間が視える』伝説のタイムトラベラーとして、現在も語り継がれているのです》
「伝説の……タイムトラベラー……」
《そう、貴方は伝説のタイムトラベラーと同じ力を持っている。私が最初に感じたユウの『素質』は、この現れなのかもしれません》
「……そうか……。じゃあ僕は……」
「相沢くんはパルスを手にするまで、タイムトラベラーのことについて何も知らなかったんですよね?」
パルスが聞いたので、うんと返事をする。
「タイムトラベラーは世襲制です。親から子供、その孫へと継いでいくものなんです。それだけの力があれば、相沢くんのお父さんやお母さんもタイムトラベラーだと思うんですけど」
世襲制?
初めて知ったぞ、そんな話。
でもそういえば、ハレンは既に滅びを経験してしまった生きのこった人間の子孫だっていうから、そうなのかもしれない。
でもまさか、父さんや母さんが?
それは無いよなあ……?
第一、今頃二人とも普通の人と同じく、真面目に働いていらっしゃるはずだし。
《いまいちよく分からないです……私としても、このような経験は初めてのことです》
「だよなあ……」
僕の深層心理内と、外の世界では時間の流れる速さが違うらしい。
だから、何日か何年過ぎたのか分からないほど長く感じた修行も、終わってみれば夜の6時、そろそろ下校時刻だ。
《今日はお疲れ様でした。ユウは先程の力で、かなり体力を消耗しています。今日は家でゆっくり休みましょう》
「うん……そうしよう、ていうかそうしないとマジで明日死ぬ」
「相沢くん、立てますか?」
「ああ、なんとかね……よい、しょっと」
そんな感じで今日の修行が終わった。
さっきの力が何なのかよく分からないが、これだけは分かる。
この力を使いこなせれば、清奈も驚くだろうな、と。
そういえば清奈はどうしたんだろう?
午後は授業を受けてたみたいだが、何か分かったのかな?
それに、イクジスのことがある。
イクジス然り、清奈が言っていた、ネブラの根元……。
気になることは山のよう、でもまずは……
「あ……いつつつ……」
この体を休ませなきゃな。
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