第一章 始まりは突然に
[05]第五話
「うぅ……。お嫁に行けなくなっちゃった…………」
「何をごちゃごちゃ言ってるんだ。ただ包帯を取り替えただけだろうが」
「……乙女の心を傷つけました」
「はあ……?」
如月は怪訝な顔をした。
どうやら自分が何をしたのかよく分かっていないらしい。
「お前は可愛いから、結婚ができない事はないだろう」
「なっ…。何を急に……!」
ネルフェニビアは、今度は別の意味で赤面した。
「熱でもあるのか? まあ、さっき検温して問題はなかったから、そんな事はないだろう」
如月は椅子に座り、食べかけだった棒付きキャンディーをまたくわえた。
映像ディスプレイを目の前にして監視を再開したのだ。
一方、ネルフェニビアは怒っているやら恥ずかしいやらで、布団を顔までかけて不貞寝している。
如月は、そんなネルフェニビアが可愛いなどとは思わず、自分がなすべき事に全力傾倒していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それから何ごともなく数時間が経過した。
夕方になり、如月は座りながら大きく伸びをした。そして、椅子から立ち上がりダイニングルームへと向かう。
冷蔵庫には、まだ買い溜めしてあった食品があったはずなのでそれを取り出した。
牛肉、タマネギ、ニンジン、ジャガイモ、野菜ジュース、そしてハヤシライスのルー。そう。今日の夕飯はハヤシライスである。
如月は、慣れた手つきで包丁を扱っている。
その様子を、ドアを少し開けてネルフェニビアが見ていた。
「空腹で匂いにでもつられたか? そこで十分以上も眺めているならもう大丈夫だろう。だから働け」
如月は、ニンジンを切りながら言った。
ネルフェニビアは、気付かれた事にかなり驚いていた。だが、おずおずとキッチンへ入って来た。
「………何を、手伝えば良い…のでしょうか?」
「タマネギの皮を剥いて、適当に切ってくれ」
如月は、ある程度の作業はできるだろうと見越して指示を出した。
だが、その後の恐ろしい展開を全く考慮していなかった。如月がそれを知る事になるのは、数分後の事である。
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