第43章


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 平静を保っていた俺の意識に、途端に恐れが振って湧いて来た。
”彼等”だ。俺が手にかけてきた者達だ。”彼等”の存在は幻影の中だけでは留まらなかった。
きっと恐らくあの幻影は対象が最も恐れるものを無意識に鏡のように反映して見せただけで、
意図的に”彼等”を写そうとしたわけではない。
”彼等”は最初からこの場所で俺が来るのを待ち侘びていたのだ。そう感じた。
 俺は逃げた。ただ我武者羅に闇雲に負ってくる手の気配から離れるように逃げ続けた。
されど無数に追ってくるものをかわし続ける事なんて出来るはずも無く、
やがて尾の辺りをがしりと掴まれた。放電して抗おうとしてもまるで電気袋に力は入らず、
瞬く間に押し寄せてきた”彼等”に俺はずぶずぶと取り込まれていった。
 ――嫌だ、嫌だ! 必死に声を上げようとしても、喉はうんともすんとも言わなかった。
苦し紛れに俺はまだあるかどうかも分からない自分の手足をばたばたとさせてもがいた。
もがいてもがいて、もがき続けている内に、やがて俺の手はがしりと何かを掴んだ。
 途端に差し込んだ光と共に俺の体は引っ張り上げられたように感じ、ぱちりと視界が開いた。
目の前にはとても驚いた様子のシスターが居て、俺は見知らぬ一室のベッドの上に横になったまま、
彼女の手を確と握っていた。

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