第43章


[85]無題


 現場に到着して、俺は自軍のマークが刺繍されたスカーフで彼女のモンスターボールを包んで、
丁度泥棒が風呂敷包みを背中に担ぐように巻きつけて背負い込んだ。
傍から見てあからさまに俺の背は膨らんでいることだろうが、スカーや他のポケモン達が
さりげなく兵士達の視線を遮ってくれた。
 頃合を見て上空で偵察するピジョットが虚偽の報告をして、
そちらに注意が向いている間に俺が彼女を連れて抜け出すという算段だ。
それじゃあピジョットが後で大目玉を食らうんじゃないかと彼女は心配していたが、
『なあに、気にする事はない。今の当方には貴女が無事に帰ることが出来たと報告を受けることが、
何ものにも変え難くこの上ない褒賞である』
 そんな風にピジョットは敬礼をしてニッと嘴を緩ませていた。

 程なくして、上空を旋回するピジョットが警戒を促す甲高い声を上げ、
兵士達の注意が一斉にそちらに集った。
 見計らったようにスカーが俺の背をポンと軽く叩いた。
『お別れだな、シスターちゃん。無茶してまたワルーいヤツらに捕まったりするなよな。
それじゃあしっかりエスコートして来いよネズ公』
”ああ。必ず無事に送り届けるさ”
 気を引き締めて発とうとする俺に、そっとスカーが意地悪くニヤついて囁いた。
『くれぐれも駆け落ちなんてすんじゃねーぞ』
”す、するか、馬鹿野郎!”
 ケラケラとからかうスカーの笑い声を振り切るように、俺は素早くその場を後にした。

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