第43章


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 最低の掃き溜めだと蔑んでいたここでの暮らしも、案外と満更でも無いのかも知れない。
そんな風に思える程に、宿舎は床も壁も空気も住んでいる者共さえ少しずつゆっくりと、
ろ過機装置にかけられた泥水みたいに汚れが落とされていくように感じた。
 その一方で、俺達が駆り出される戦いの場は、ぶり返した病のように過酷なものとなっていった。
戦況は依然、自国の圧倒的優位には違いない。だが、前線に配備される者達の死傷率は上がっていた。

 そもそもこの戦争の切っ掛けとなるものが何であったか。
確か、反政府的な武装組織の首謀者が敵国に逃げ込み、引渡しを自国が要求したところ、
敵国がそれを拒否したのが発端だったか。いや、敵国が強力な兵器を開発していると断じて、
自国がその廃棄を要求したのが原因だったかもしれない。まあ、どちらであろうと、両方だとしても、
さして違いは無いことだ。所詮、表向きに振り翳すために創られた大義名分でしかない。

 真の目的は別にあったんだ。自国だけではない、敵国さえも一介の者達には知る由も無い水面下で、
その”目的”を追い求めていたのさ。もしも”目的”が手中に収まれば、
俺達ポケモン、ことに遺伝子に関する研究は猿が火を得たが如く飛躍的に進む。
そうやって得た成果を歪な形に応用し、存分に悪用するために。

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