第43章


[72]


 あの黒猫が荒事も無く口先で屈した。余興のように傍観していた他の奴らも、
唖然とした様子でざわざわと騒ぎ立っていた。その中央で茶色い羽の大きな鳥が袋を抱え、
何やら悔しがっているポケモン達のもとから食料をてきぱきと徴収していく。
粗方集め終わると鳥ポケモンは悠然と彼女の方に歩み寄り、木の実がたっぷり詰まった袋を
まるで勲章の授与でもするみたいにもったいぶった動作で手渡した。
〈えと、なんですか、これ?〉
 一体何のつもりだろうと彼女はきょとんとして首を傾げた。
『スカー殿とネズミ殿、どちらが勝つかという賭け遊びが、よもやこんな結果になるとは。
それは偉大なる武勲への褒章である。あのスカー殿を弁舌のみで降すとは実に見事であった』
 鳥ポケモンはビシリと翼で敬礼し、声高々に大げさに称えた。
〈降すって、私はスカーさんと楽しくお喋りさせていただいただけですわ。
それに、この中身は宿舎にいる皆様のために配られたものでしょう? お気持ちは嬉しいのですが、
私のような者がこんなに沢山受け取るわけには参りません〉
 スカーとはただ楽しく喋っていただけだし、皆の分であるものをこんな受け取れない。
困惑して返そうとする彼女に、鳥ポケモンは”フッ”とキザたらしく頭の派手な色をした長い羽を撫で、
丁重に押し返した。


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.