第43章


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〈外に出られないなんて、それは困りました。いつまでも戻らないと、牧師様達に心配をかけてしまいそうで……〉
 あらましを聞き、しゅん、として彼女は村の者達に心配をかけてしまうことを嘆いた。
”すまないな、シスター。だが、同族のよしみだ、今すぐにというわけにはいかないが、必ず無事に村に返してやる。
その内、歩哨任務か何かで、外を兵士から離れて一匹でうろちょろしても怪しまれないような機会が必ずあるだろう。
その時にでも、兵士の目を盗んでお前、いや、君をボールに忍ばせ、隙を見て解き放つ”
〈ありがとう。私なんかのためにわざわざ、すみません〉
 俺がそう伝えると、彼女は表情に明るさを少し取り戻し、礼の言葉と共に微笑んだ。

 元はと言えば、俺のせいだというのに。また胸がちく、と疼いた。
”それまでの間は、出来る限りこの部屋の中で大人しくしていてくれ。であれば俺は絶対に手出しはしないし、
他の奴らにも手出しはさせない”
 痛みを再び片隅に強引に押しやり、俺は忠告した。ろくでなし共が闊歩する宿舎において、
彼女はグラエナの檻に放られたカモネギのようなものだ。何も知らず無防備に部屋の外を出歩けば、
忽ち、襲われかねない。ずっと部屋の中に居てくれれば、俺も彼女を守りやすい。
〈あら、あなたの他にも、ここにはどなたかいらっしゃるんですか? って、ここは宿舎なんですもの、
他にも誰か居て当然ですよね。そうとなれば、その方々にもご挨拶をしませんと。例え少しの間でも、
私のような部外者がご厄介になるんですから、黙ってと言うわけには参りません!〉
 だが、そんな俺の思いも虚しく、少しの間とはいえお世話になるんだから、
他の方々にも挨拶をしないわけにはいかない、と奮起した様子で彼女は部屋を飛び出していった。



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