第43章


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 駄目で元々のつもりだったが、まさか本当に話す気になってくれるたぁな。
仄かな期待と、少しばかりの不安を抱いてあっしはマフラー野郎を見やる。
「それじゃあ、まずは君から頼むよ、ヤミカラス。君が今までどんな風に生きてきたのか」
「はあ? 何で俺様が?」
 唐突な言い分に困惑するあっしに、マフラー野郎はわざとらしくとぼけた顔をする。
「自己紹介は自分からって言うだろう? 何事においても、何かを得るには何かを
与えなくちゃあならないものだ。俺だけ話すって言うのはフェアじゃあない。
お嬢さんも、そう思わないかい? 盗み聞きのような態度はあまり感心しないな」
 言いながら、マフラー野郎は地面に丸まって寝息を立てるニャルマーを見やった。
眠りこけているとばかり思っていたニャルマーの耳が、ぴくりと反応する。
「……お見通しかい」
 観念した様子でニャルマーは緩慢に起き上がる。
「本人の意に反して耳や尻尾の動きは正直なものさ。それに警戒心の強そうな君が、出会って日の浅い
奴らの前で堂々と寝るなんて真似をするとは端から思ってないし、鎌を掛けたらズバリってとこ」
 ニッとマフラー野郎は笑いかける。
 ニャルマーは呆れたように鼻で息をつき、『はいはい、参った、参った』と白い尾先を振るった。
「じゃあ、早速、ヤミカラス君からどうぞ」
 まるで学校の先生のようなもったいぶった口調で、マフラー野郎はあっしを指す。
 視線が集い、あっしは駄目な落第生徒の如く、「う……」と答えを詰まらせる。


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