第23章
[23]
「と……も――?」
白獣は、何か大切な物を無くして探している子供のような不安で悲しげ表情を浮かべる。
「今はそれでいい。深く考えるな」
無くした記憶はそう簡単に見つかりはしない。だから今はそれでいい。
俺もそうだ。刃物でざくりと切り取られたように思い出せない幼少期の記憶――残るは誰かの背中の温もりだけ。今はそれだけでいい。
黙々と手足の鎖を外している間、白い獣はずっと俺の顔を黙って眺めていた。純真無垢な赤い視線を穴が開きそうなほど浴びせられている。俺は何となく気恥ずかしくなり少し顔をそらしながら作業を続けた。
「これで最後だ」
白い獣の胴体に繋がれている最後の一本を引き千切り、握り砕いた。砕けた鎖は黒い燃えカスのようになり、細かくなりながら空気に溶けて消えていく。
これでようやく視線から解放される。陸から水の中に戻された魚みたいな気分だ。
枷が無くなり体の自由が利くようになった白い獣は、こりを取るようにぶるぶると体を振るわせる。そして気持ち良さそうに唸りながら背中を伸ばした。
「ふう、ありがとう――ピカチュウ……さんって付けたほうがいいの?」
「いらん。俺達は友、だろう?」
「……うん! ああ、嬉しいなあ。ボクの初めての友達!」
白い獣は嬉しそうに微笑み、俺に飛び付いてきた。抱き込まれ白い獣の首まわりのもふもふした毛並みに俺は顔がうずまる。
「ぷはあっ! ク、クレセリアは違ったのか?」
毛玉地獄から何とか抜け出し、俺がそう問うと、白い獣は少し顔を曇らせる。
「うん……そのような恐れ多いことはできません、と断られたんだ。私はあるじ様の部下であり、あるじ様であるボクとは身分も格も違いすぎるんだって……。おかしいよね?」
身分が違う――か。そんなものがどうした。反逆し、戦いを挑むなんて“恐れ多いこと”を俺はやってのけたのだ。友になるくらいどうって事はない。
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