第43章


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 分かったと応じて、か細い電球の光が階段を上がっていくのを見送ると、
俺はドアへと向き直って恐る恐る光が覗く隙間へと手をかけた。
安全だと彼女が言っていたのだから大丈夫だとは思うが、”あの方”について話していた時、
最後に彼女が何やらくすくすと意味深に笑っていたのがどうにも気掛かりだった。
 もたもたする俺をじれったく思ったのか、ドアは見えない力に引っ張られるように
急にグイと開かれ、ドアの端を掴んでいた俺はそのままよたよたと部屋の中へと転げ込んだ。
〈もう、何をもたもたしているんですかー。あまり女の子を待たせるもんじゃありませんよ〉
 聞き覚えのある、それどころかついさっきまで近くで聞いていた声だった。
驚いて俺はふわふわとしたカラフルな絨毯から顔を上げて、その方を見やった。
色とりどりの玩具やぬいぐるみが飾り付けられたまるでおもちゃ箱みたいな雰囲気の部屋の奥に
ぽつんと立つ、真っ黒なフードとケープを羽織った後姿。黄色よりちょっと濃い、
少し琥珀色がかった耳と尻尾からして間違いなく彼女だった。だが、彼女は上に戻った筈。
一本道だった階段を上がっていく姿を確かにこの目で見届けた。
何が起こっているのかわからず、俺は狼狽してその彼女らしきものと階段の方を交互に見やった。
彼女らしきものは唐突にパチンと手を鳴らし、呼応するようにドアはひとりでに閉まった。
それから彼女らしきものはおもむろにこちらへと振り返った。その優しい笑顔は紛れなく彼女だ。

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