第43章
[136]
”えーと、おはよう、まだこんばんは、かな……。一体、どうしたんだ?
今日も仕事はあるから、もう少し休んでいたいんだけれど”
言葉に少しばかり非難のトゲを生やして俺は言った。
〈事情は後でお話します。今は静かに私の後についてきて〉
声を抑え気味にそれだけ言って、彼女は廊下をそそくさと静かに歩んでいった。
怪訝に思いながらも、仕方なく俺はその後に続いていく。
俺も彼女もまったく言葉を発さず、か弱い電球の明かりだけを頼りに黙々と静寂と闇の中を歩んだ。
真っ暗な教会内は昼間とは打って変わって、神を祀る場所とは思えない程に不気味に感じられた。
光が強いとより影は濃くなって見える。教会に病院、学び舎や商店街など、昼間は活気があったり
安心できる場所である程、夜になってひと気と明かりが失せると殊更に不気味に映るものなんだよな。
少し不安になりながら聖堂まで俺と彼女はやってきた。暗闇に浮かぶ神々のステンドグラスが、
まるで悪魔みたいな様相でもってこちらを見下ろしているように見えた。
そのまま彼女はとことこ、確か先が物置と酒蔵庫になっているという扉の方へと歩いていって、
ゆっくりと押し開いた。成る程、そこは確かに様々な物があれこれと積まれている場所と、
酒がたっぷり入っているんであろう大きな樽が横になって並ぶ場所とがあった。
彼女は酒樽の並ぶ方面へと迷い無く進んでいく。
辛抱堪らずに起こした理由を再度訊ねる俺をシッと彼女は止めた。一番奥の酒樽の前まで来ると、
樽に備え付けられた蛇口へと彼女は手を伸ばして掴んだ。そして、彼女は栓を捻るのではなく、
何故か蛇口自体を手前へと引っ張る。その途端、酒樽の蓋がドアのように開いた。
ぎょっとして俺が中を覗くと、空っぽの樽の奥には地下へと続く階段がぽっかりと口をあけていた。
〈朝早くから不躾に呼び立てて、本当にすみません。ですが、”あの方”があなたにお会いしたいと〉
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