第43章


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 ――牧師や村の者達、子ども達も彼女の事を”シスター”ではなくちゃんと本当の名前、
あるいはそれに因んだ愛称で実際のところは呼んでいたが、前にも言った通り今の俺には
彼女の名を口にするような資格は無い。だから、仮にシスターとしておく。
 すげー、ホントにシスターとそっくりだ! でも、シスターちゃんより、まっ黄色だし、
ちょっと目付きもツンツンね。この子、撫でても大丈夫かな、噛まないかな?
 そんな風に人間の子達は俺を見下ろしてわいわいとはしゃぎ声を降り注がせ、
 おにいちゃん、おケガはもうだいじょーぶ?  なーなー、にぃちゃんどっからきたの?
 おでかけいいなー、どこいくの? ポケモンの子達は俺の周りに詰め寄って、
質問の集中砲火を浴びせかけてきた。
 上と下からの激しい波状攻撃に堪らず、俺はアーボに見込まれたニョロモのように
ぎこちない動きで彼女の方に振り向いて視線で助けを求めた。彼女は仕方なさそうに微笑んで、
ゆっくりと包囲網に割って入ってきた。
〈はいはい、みんな、ごめんね。お兄ちゃんはね、ただ遊びでお出かけする訳じゃあなくて、
まだ歩く練習の最中なの。紹介はお夕飯の時にでもちゃんとするから、今はジャマしちゃダメよ〉
 彼女に優しく窘められ、ちぇっとポケモンの子達は少しぶーたれながらも俺から離れた。
人間の子ども達も彼女の言葉が直接伝わるわけはないが、意図を何となく察して渋々道を開けた。
 また後でねー、と子ども達の見送る声を背に受けながら、俺は一時の休戦協定に安堵の息を漏らし、
だが、いずれ直ぐに迫り来る夕飯時という名の開戦合図を思って一匹身震いした。

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