第43章


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〈それに私達がいつか死ぬ事を定めたというのがもしも本当だとしても、
それは仕方の無いことだったんじゃないかなって思うの。だって、新しい命は常にどこかで
産まれ続けている筈なのに、誰もがいつまでもそのままでいたら、世界の広さだって限りは
あるはずだからいつの日かぎゅうぎゅうになってパンクしちゃうわ。
今日のお弁当だって本当はもっと色々一杯詰め込んできたかったけれど籠には限界があるし、
食べるかして減らさないといつか駄目になって、別の新しいものも入れられないでしょ。
いつか終わりがあるって分かるからもっと今を大事に過ごしたくなる。もっと誰かを大切にしたくなる。
これは牧師様の受け売りですけれどね。……あっ、私ったら、ごめんなさい、ついつい長話を〉
”いや、構わない。そのギラティナというのは一体どんな姿を?”
〈はい、ギラティナ様に関する資料はあまり残されていなくてはっきりとしないらしいのですが、
身体の色は淡くぼんやりと輝く白金色で、背から何本もの影の触手を生やした長虫のような、
あるいは三対の足と一対の影の翼をもつ重厚堂々とした竜の姿で描かれていたそうです。
牧師様曰く、他の御二柱よりも何だかおどろおどろしく描かれていて一見怖そうだけれど、
世界をずっと見守っているという話の方が自分は好きだし事実と仮定するならば、
その姿を怖がって目を背けずにじっくり顔をよく見たら、案外優しい眼をしているんじゃあないかなぁ、
ですって。私もそっちの方が素敵だと思います――って、いけないいけない、
このままじゃお散歩できる時間がどんどん減っちゃいます。さあ、早く外に行きましょ〉
 早く外に行こうと促す彼女に頷いて外へと向かうすがら、俺はもう一度ステンドグラスを一瞥して、
あそこで踏ん反り返っている者達よりも、そのギラティナとかいう者の方が幾らか共感できそうだと思った。

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