第43章


[112]


 思えば誰かから何の皮肉も嫌味も畏怖も無い称賛を受けたことなんて初めてだった。
今まで俺が成し遂げた事なんて泥やら血やら灰やらに汚れたものばかりで、
それに送られる賛辞なんて悪意や恐れにまみれていて当然かもしれない。
 だから、何の混じりけも無く純粋に、それも普通の者なら出来て当然の事なのに褒められて、
暗闇に慣れた目に唐突に陽の光を浴びせかけられたモグリューみたいに驚き竦んでいる自分がいた。
〈本当に、本当におめでとう……! よく頑張ったね〉
 ふらつく俺の手を取って支え、彼女は微笑みかけた。細めた目からぽろぽろと涙が零れた。
”あ、ああ……”
  何だか胸の中がこそばゆいけれど、やり遂げたのはとても小さな一歩だけれど、
決して悪くない感覚だった。
 何もかも失った気でいた俺が、初めて手にした小さくてもかけがえのない栄光。第一歩だった。

〈明日からは少しずつ歩ける距離を増やしていきましょう。それで、十分に歩けるようになったら、
村の中を案内がてら一緒にお散歩しましょ。後それから、村やここに住む子達を紹介するわ。
今まで身体に障るといけないと思って面会謝絶にしていたけれど、みんなあなたの事が気になって、
会えるのを楽しみにしているの〉

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.