第43章


[105]


 部屋に残されて一匹、俺は捨てられた空き缶のように虚しくベッドに転げていた。
 彼女らの言葉は事実だと頭では理解してもにわかには受け入れ難く、
無駄な抵抗を試みる度に背中から全身にかけてびりびりと走る激痛に打ち震えた。
俺自身は耐性があるから分からないが、電流を浴びせかけられた者は
きっとこんな苦痛をいつも味わったのだろうかとぼんやりと思った。
 無力に倒れ伏す都度、痛みと失意に頭は朦朧とし、部屋の角、机の下、
棚の隅、暗闇という暗闇に”彼等”が見えた。
こんなざまでは二度と部隊に復帰することなど出来はしないだろう。
とても使い物にならないと処分されるだけだ。まるでゴミのように。
体の震えが止まらなかった。何も出来ない、取るに足らない、
無意味で無価値なものとなることが何よりもとても怖かった。
いっそ殺してくれと俺は懇願した。だが、”彼等”は何をしてくるわけでもなく、
ただ俺の無様な姿を嘲笑っているようだった。
 最悪の精神状態だったよ。善意でやっている牧師や彼女の看護を、
感謝するどころか、生殺しにされているとさえ思うようになっていった。
あの頃の俺は兵器として戦うことだけが己が存在できる唯一の理由であって、
価値だって摺り込まれていたからね。それに、罪悪感もあったと思う。
村には戦争の煽りを受けて悲惨な境遇にあった者達が大勢いるっていうのに、
自分はその加害者側に属する存在だったんだから。


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.