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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[31]３月１３日(華蓮)

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｢あれ？

華蓮…だよね。｣

市中見廻りの途中で声を掛けられた。

懐かしい、かつて聞き慣れた、低く穏やかな響き。

振り向くと幸助…元カレがいた。

・―・―・―・―・―・

｢久しぶりだね。

君の活躍はメディアで伝え聞いてるよ。

元気そうだね。｣

喫茶店の窓際の席で向かい合う幸助は、コーヒーのミルクをかき混ぜながら言った。

左手薬指にはプラチナの指輪が独特の鈍い光を放っている。

彼は昔からボタンダウンのシャツにレジメンタルのネクタイがお気に入りだった。

今もそれは変わらないらしく、今日もブルーのシャツに赤と紺のネクタイを締めている。

私はこの男の｢プレジデントと日経新聞を買って来て｣というごく簡単な要望にうまく答える事が出来ず、別れを告げられた。

今となっては遠い昔の笑い話だが…。

｢君も幸せになったんだってね。

良かった。｣

眼鏡の奥の優しい瞳が私に微笑みかける。

私はこの瞳に惹かれたのかもしれない。

このまま見つめ合っていると、かつての感情が甦る気がして、つい目をそらしてしまう。

｢あの時の彼女…元気にしてる？｣

あの頃の事は昔話し。

未練も嫌味も含まず、素直な笑顔で聞けた。

｢子供２人の母親だ。｣

彼は微笑んでコーヒーを一口飲んだ。

｢そう。

[プレジデント]も[日経新聞]も発売日を間違う事なく買って来てくれる、優秀な奥さんなのね、きっと。｣

眼鏡をツイと人差し指で上げ、また微笑んだ。

｢幸せだよ、お陰様で。

でもその半面、君には悪い事をしたと、今も悔やんでいるよ。

若かったとはいえ、自分でも酷い事をしたと思ってる。｣

彼は組んでいた足をほどき、また私の瞳を見つめた。

｢君を傷付けた事、後悔しているんだ。

ずっとそれを伝えたかった…。｣

やめてよ。

そんな瞳で、昔と同じ優しい瞳で私を見つめないでよ。

｢君は自分で『幸せだ』と思っていても、無意識に不幸を背負ってしまっている女だ。

いつだってそうだった。

きっと今だってそうなんだろう？｣

そうなんだろうか。

今の生活は幸せだと感じている。

強いて言えば食費がかさむ事と、子供がなかなか授かれない事が悩み…

あ、やっぱ不幸背負ってるかも。

｢僕は君を幸せにしてやれなかった。

だからせめて罪滅ぼしに…｣

幸助は持っていた紙袋から何かを取り出した。

｢これを譲ってあげるよ。

【幸福の壺】だよ。

今ならキャンペーン中で月々３千円のローンが組めるから大丈夫！｣

・―・―・―・―・―・

とんでもない奴に声を掛けられたもんだ。

旧知の仲だという事で心許し、危うくおかしな壺を買わされるところだった。

やっぱ銀時に黙って元カレに会ったバチが当たったのかもね…。

｢ただいまー。｣

愛しい家族の待つ家の玄関を開けると、銀時が嬉しそうに顔を紅潮させ、私の元へやって来た。

｢ホラ見て見て！

今日たまたま元カ…昔の友達に会ってさァ、これ貰ったんだよねェ～。

【幸福の壺】!!

今ならキャンペーン中で月々３千円のローンが組めるんだってよ！｣

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