ガイア
[05]疑惑
「よそのシェルターはどうなってるんだ?」
グレイスを取り巻くギャラリーの一人が言った。
「有線、使えるんだろ?」
声の主、ライアックがグレイスに近付いて訊いた。
「そうですね。繋いでみます。」
「まぁ、ここと似たような状態なんだろうがな…それと…」
ライアックがグレイスの耳元で小声で伝える。
「重力の事は言わない方がいいだろう。」
「そうですね…わかりました。」
「シェルターの状況は?」
ビアッジ艦長がラミアス情報統轄士に訊いた。
「生命維持モードで稼働しています。現状では問題ありません。」
「問題無いものか…」
ブリッジの誰にも聞こえないような小声でビアッジ艦長が本音を漏らす。
移民船であるエスポワールには2機の揚陸艇が搭載されている。人類の、いや、命を持ち生きるもの全ての新たな大地となる星を探す為に、辿り着いた星が生物が生きて行ける環境かを調査する為に。
だが、長い航海の間に、その揚陸艇が使われたという記録はなかったのだが。
ビアッジ艦長は決断し、グレゴリオ操舵士に伝えた。
「クサントスを出せ。グレゴリオ操舵士、ラミアス情報士、着いてこい。」
「りょ、了解!」
「ガガッ…ピピッ―もしもし…聞こえますか?」
グレイス達のシェルターの隣、商業区B-3シェルターにグレイスの声が響く。グレイス達と同じくどこにも繋がらない非常用回線盤を前に四苦八苦していた人だかりの内の一人が受話器を取った。
すると、B-3シェルターの人だかりに安堵の表情が浮かぶ。
「その声、グレイスか?」
「シズル?」
シズルと呼ばれた少年はグレイスに状況を伝え、情報を共有する。そして、他のシェルターもまた、自分達と同じく隔離された状況である事に落胆した。
そこに、新たな声が混ざった。どうやら別のシェルターからグレイスと同じ方法で回線に侵入してきたらしい。
「A-1シェルターからB-3へ。B-3、無事か?誰か返事をしてくれ。」
渋い男の声だった。それはグレイスとシズルには聞き慣れた、よく知る人の声だった。
「ブライアン教授…?」
「そうだが、君は?」
「グレイスです。機械電子工学科のグレイス・サタニー。あと、シズルも。」
「サタニー君か。流石だな。この状況で回線を開くとは。それより…そっちのシェルターは無事か?」
「B-1もB-3も今のところは。ですが…」
シズルが口ごもる。
「皆が不安がる。みなまで言うな。こちらでターミナルに侵入し気密扉を開ける。扉が開いたら中央シェルターへ皆を誘導してくれ。纏まっているほうが何かと便利だろう。」
「解りました。」
数分後、隔壁が開かれ一般避難民は皆、中央シェルターへ集まった。見知った顔に会えた事で、人々に安堵と笑顔が戻った。
グレイス、セシア、シズル、そして数名の少年達がブライアン教授の元へ集まった。その顔触れの中には、ライアックの姿もあった。
「重力、大気圧、酸素濃度、エスポワールとほぼ同じ。大地に森に空に雲…居住区の景色と変わらんな。」
「充分…というか、何の問題なく生きて行ける環境ですね…」
「ついに見つけた、ってことでしょうか…?」
そこにはよく見知った、方舟の中の景色と全く同じ景色が広がっていた。ただ一つ違うことと云えば、その景色には限りが無い、と云うことだった。
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