第41章
[60]
「それじゃ、気を取り直して行こうか。一匹ずつ慎重にだ。まずは俺から」
マフラー野郎はセンサーの少し手前で伏せ、長い耳もしっかり下に折り畳んで、じりじりと匍匐前進していく。
背中のチビも今の所は大人しくマフラーに包まれて寝ているようだし、どうにか上手く抜けられそうだ。
この調子なら、当初の予定よりも穏便に百貨店まで登っていくことができるかもしれない。
その後は人だかりを掻き分けて、外まで逃れるだけだ。ヘルガー共と戦ったことに比べれば、
ただの人間達なんて最早どうってことねえと思えた。
緊張から少し解放されたら、思わず腹がぐうと鳴る。そういえば、あっしがマフラー野郎の話に乗って、
事を起こしたのは丁度昼の少し前だったか。どうせなら最後の昼飯を貰ってからにすりゃ良かった。
団員のポケモンに支給されるのはいつもクソ不味い安物の餌だったが、何も食わないでいるよりはマシだ。
商品――もとい、捕まっているポケモン達に餌が配られるのは、団員のポケモンよりも後回しだったから、
きっとマフラー野郎達もまだ何も食っていないことだろう。もういい大人のマフラー野郎とニャルマーはともかく、
食べ盛りでもっと腹が減りやすいであろうチビの機嫌は大丈夫なのかねえ……。
じわじわと進んでいくマフラー野郎を見ながら、あっしはぼんやりとそんな風に考えていた。
そんな時、まさにセンサーの真下だというのに、マフラー野郎の背が、チビ助が包まれているマフラーの
膨れが、もぞもぞと不穏な動きを見せる。もしもチビが目覚め、何も知らずに顔を上げてしまえば――
あっしらの間に戦慄が走った。マフラー野郎も思わずぴしりと動きを止める。
しかし、動きは直ぐに治まり、あっしらはほっと胸を撫で下ろした。この隙にとばかりに、
マフラー野郎は珍しく少し慌てた様子で這う速度を上げて、まさにネズミの如くかさかさとセンサー下をくぐり、
向こう側へと抜けた。やれやれ、と溜め息をつきながらマフラー野郎はゆっくりと立ち上がる。
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