第41章


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 やがて、マフラー野郎もダクトに登り、あっしらの後に追い付いてきた。
 それを見たチビはすぐさまニャルマーの背を降り、マフラー野郎にしがみ付いた。
「やあ、お待たせ」
 マフラー野郎はチビの頭を撫で、軽々と肩に抱き上げた。
 まるで、ちょっとデートの待ち合わせに遅れた、とでもいった何気ねえ風情だ。
 下から響いてくる、あのゲス犬の怨嗟の声がなければ、だが。
「あの騒ぎじゃ、直に団員共が集まってくるぜ。ここが見つかるのも時間の問題じゃねえのか?」
「奴が大事にされてたポケモンなら、まず手当てが先だろうし、しばらくはそれどころじゃないだろうさ。
まあ、あれだけ傷モノになれば、この先もご主人とやらが大事にしてくれるかどうかは疑問だけどね」
 そう恐ろしげな事を平気で言いながら、あいつはニコニコと笑いやがる。
 最早あっしは、その屈託のねえ笑顔にすら、ゾッと背筋が凍り付くものを感じていた。
 ――もし、あっしが奴らと同じ立場のまま、あんな電撃を浴びる羽目になってたとしたら……
ただでさえ電気にゃ弱いあっしなんざ、間違いなく一瞬であの世逝きだった……
「大丈夫だって。そんな心配する事ないさ」
 あっしの心中を知る由もなく、マフラー野郎は、ぽん、とあっしの背中を軽く叩いた。
 途端、あっしは思わずブルっちまい、悲鳴を抑えるのに必死だったなんてこたぁ、奴は思いもしねえだろう。
「でも、そんなにグズグズしてもいられないな。俺が先を調べながら進むから、君達は後を付いてきてくれ」
 そう言うとマフラー野郎はチビを背負い直し、先頭に立ってダクトの中を進み始めた。
 次いでニャルマーが歩き始め、あっしはしんがりに立って後を追った。
――敵に回しゃあ恐ろしいが、味方にすりゃ、これほど頼もしい奴はいねえ――
 暗がりの奥に進んでいく、小柄な黄色い背中を見ながら、こん時のあっしは、まだ……
このマフラー野郎を怖れつつも、次第に惹かれて止まねえ事に、まるで気付きもしねえでいた。


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