第41章


[46]


「おおっと、つい手が滑ってしまったよ。危ないところだったなぁ、ガキ共。さて、ヤミカラス。
商品をこんなに沢山檻から出して、一体どういうつもりだ?」
 見つかっちまった――! 嘴を噛み締め、あっしはゆっくりと振り返った。視線の先では、
群青色の毛並みをした二本角の犬がにたにたと嘲笑を浮かべていた。
群青のヘルガー。こいつには後々まで苦しめられることになる。幹部を親に持つエリートのぼんぼん団員に
飼われてた陰湿で執拗で残忍なゲス野郎さ。色違いのポケモンなんてのはとても珍しい存在だが、
糞ぼんぼん野郎が、親のコネでどこぞから自分のために仕入れさせて以来、そりゃもう大事に大事に育てられたらしい。
 その結果か、飼い主共々その地位を鼻に掛けて好き勝手やり放題だった。気にいらねえ奴がいりゃすぐに殴る、噛み付く。
下っ端の手柄は平気で横取り、失敗は擦り付ける。横領なんざ息するようにやってたぜ。
その癖、自分の飼い主――ぼんぼん野郎は幹部の親、ゲス犬はぼんぼん野郎――には、
プライドなんて無いように尻尾を振りやがる。悪の美学の欠片もねえ、ヘドロより淀んだ奴だ。
「こ、こりゃ、旦那……。い、いや、ちょっと在庫調査をするようにと仰せ付かっておりやしてね、へへ。
旦那の手を煩わせるまでも無い、すぐにあっしの方で片付けておきやすんで、気にせず見回りに戻って下せえ」
 媚び諂う様に低姿勢に、あっしは言った。こんなゲスにまた諂うなんて、自分で自分に反吐が出そうだったが、
少しでも言いくるめられる可能性があるなら賭けておきたかった。ぼんぼん野郎の方は完全に親の七光りってヤツだが、
ゲス犬の方は相応の実力を持っている。あっしは味方の戦力を一応、頭の中で再確認してみた。
ガキ共は当然論外、軍隊にいたなんて漏らしてはいたがマフラー野郎も所詮はネズミだ。きっと偵察だとか、
軽めの物資の輸送だとか、その程度の役割だったに決まっている。そして、あっしはしがない元倉庫番――無理にも程がある。



[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.