第二章
[02]先生
「はぁ、はぁ…っはぁ
…着いた。」
目の前には牢獄の入口があった。
見張りは三人、だが何も考えず入口へ近づいていった。
兵の一人は気付く。
「そ…爽貴様!」
「え?どうして?!今はマズイですよ!」
「何か凄い息荒いですよ。
それにしても今日は正装でまた別品だなぁ。」
「馬鹿!綺麗なのはいつもだ!」
爽貴様は兵の前までやってきた。
「あの、入れて下さい!
五年前の男の子に…。
「すいません、毘禅様の許しがなければお通し出来ないんです。」
「私から許可を得ました。
君が爽貴様かな?
医者の蘇 璃燕(スー・リエン)、五年前からの彼の状態は今毘禅様の部屋で二人の兵から聴きました。」
兵すら気付かなかった。
いつの間にか爽貴様の後ろに背が高くすらっとした涼しい顔をした璃燕が立っていた。
「あの子の主治医さんですか?
喉が潰れたとか…。
早く治して下さい!」
先生はニコッと笑い爽貴様を抱き寄せた。
「まずは落ち着いて下さいね。
貴女もさぞかし逢いたかったことでしょう。
今日は正装なので何時も以上に綺麗にされてとても美しい。
貴女のお父様は過保護すぎたんでしょうね。
さぁ、入りましょうか。」
「は…はい。」
逢いたいと思っていたが、いざ会うとなるとどう切り出したらいいやらわからないまま奥へ奥へと先生は肩に手を置き進んで行った。
歩けは歩くほど何か聞こえるような気がしてきた。
「せ…先生、何か聞こえる。」
二人は真剣な表情に変わった。
「…きっと彼だろう。
声のかすれ具合によるとかなり喉を潰してる。
これ以上叫ぶと声は出なくなるだろう。
あそこの扉がそうらしい。」
そう言うと大分距離はあるが正面にある扉に指をさした。
彼の部屋の扉まで段々と近づいてあと10メートル程の距離で叫んでいる言葉が何か聞こえた。
「…そぉうきぃ…あわぜろぅ…」
ハッキリと聞こえた爽貴様は真っ直ぐ走って行き、ドアを開けようとするが鍵がかかっている。
「先生!」
「はいはい。」
璃燕先生は小走りで爽貴様の元へと急いだ。
彼は爽貴様の声に反応した。
「…だれ…また爽貴に見立てた女かぁ?
俺の眼はごまかせないと何千回も言ったはずだ。」
その言葉に爽貴様は痛く心を痛めた。
これを呼びたいが名前は知らない。
この国では名前のない者に対し物として扱われ、呼び方は『これ』と言われる。
流石に差別をしたような言葉で呼びたくない。
「では今日はどちらの爽貴様だろう?」
璃燕の長い手が鉄の扉の取っ手を掴む。
重たく女性には開けれない扉を平気に開けた。
「………。」
中には胡座をかいた長い銀髪の男がいた。長い前髪から緋色の眼が覗き込む。
爽貴様からは暗くて詳しくは見えなかった。
だがこれからははっきりとわかったらしい。
本物と理解したのだろう、緋色の眼は大きく開いた。
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