第四章


[14]会話


ー魔封の部屋ー

ガチャ

「…君が垰珎か…
私は国王の毘禅だ。」

毘禅様が垰珎を目にした。

初めて毘禅様を見ると目を見開いた。

「…あなたが…。」

「単刀直入に聞く、誰の指示だ?」

「…。」

「では指示した者はどこにいる?」

「…。」

垰珎は無表情でうつ向いている。

「薪宮、先程の影をだせ。」

「ッ…崇様!」

垰珎はピクッと動き目を細めた。

「はい。」

グニョグニョ…

薪宮の影が動きはじめ、スッと先ほどの影が現れた。

グガァァァ!

「う…うわぁぁぁ!」

影が垰珎に手を伸ばすが、すんでの所で当たらなかった。

「今は私の影の中。
私と繋がっている間は周囲1メートルには届きません。
しかし、私が影を切った場合あなたを喰い続けるでしょう。」

垰珎は悔しそうに唇を噛みしめた。

「…わかった…話す。」

皆が頷くと毘禅様は話しはじめた。

「崇という者は貴方をここへ指示した者か?」

「ああ、かといって黒幕では無さそうだが、それ以外の者はしらない。
知っているのは崇様とその側近の唖楝(アレン)だけだ。
噂では黒幕はまだ誰も知らないそうだ。」

「そうか…っで、場所はやはりあの呂国の近くにある城なのか?」

「そうだ、あそこに黒幕がいるが崇様でも知らないかもしれない。
頂上に上がった兵は皆消されていっている。
もしかしたら崇様の他に上は何人かいるかもしれない。」

「そうか…情報は口外禁止と言うわけか。
しかし何故お前はそこにいたのだ?」

「…。」

垰珎は黙ってうつ向いたが話す気配も無さそうに眉間にシワがいっていた。

「話せぬなら良かろう、龍緋、牢屋に連れていけ。」

「はっ!」

龍緋殿は頭を下げ、垰珎の手首を持ち立たせる。

「来い。」

二人は部屋を出た。

残る二人は垰珎を背中を見ていた。

「薪宮、明日から奴の体調管理と身心状態をチェックし、使えそうにならば報告せよ。
牢屋は元龍緋がいた所が空いているはずだ。」

「龍緋殿の?!と言う事は…。」

「奴は必ず使ってみせる。」

そう言葉を残し毘禅様は部屋を出る。

「…あの方もお人好しですねぇ。
あっ、明日からの仕事を上に報告しておかないといけません!」

薪宮は走って魔封の部屋を後にした。
ー修行場ー

ここは海が広がる『怪奇の浜』として有名な修行場所、天候や月の欠け方によって様々な修行ができる。

そこには彰廉先生と爽貴様が海に陽が沈んだのを確認した。

月も星もなく真っ暗闇のなか二人はポツンと立ち、ただ彰廉先生の手にしている少しの炎だけがお互いの顔を照らし合っていた。

「昨日、今日と休みなしで頑張られた。
だが爽貴様、今まではほんの序章にすぎん。
今からが本番。

前に新月の夜は恐ろしいと話したな、その続きを話そう。

新月の夜の海は黒龍が現れる。

黒龍の潜伏場所は海の光の届かない遥か底に眠っている、そして新月の夜に目覚める。

黒龍は赤龍より契約は難しく、契約を決めるのは黒龍自身だ。

未だかつて成功した人間はいないに等しい。
今回は龍緋殿の時みたいに身体には来ない、が身心にはかなり影響がある。

今までは失敗した者は鬱にかかり閉じ籠りやがて自殺していく者ばかりじゃった。

そのためにも昨日から身心を鍛えるため修行をし、自信を得てもらったのだ。

話は以上になる。

では、火を消すぞ。」

「ま…待って!
もし失敗したら…私…。」

爽貴様は不安が募っていた。

「…恐ろしいか…無理もない、だが爽貴殿には落ち込んでも支えてもらえる者がおる、例え失敗したとしても奴が必ずお前さん自身を嫌でも引き出して来るじゃろう。

安心せい。

思うがまま黒龍にぶつける事じゃ。」

(…龍緋も修行をしているわ、お父様は容赦しない、例えそれが子供でも…。
そして関与も…。)

「…私…頑張ります。」

彰廉先生は優しく頷いた。

「火を消すと同時に闇が広がる、黒龍は直ぐに現れないかもしれないが、運良く既にお前さんのすぐ近くに来ているやもしれん。
だがお前さんを食ったりはしない。

気長に待つのじゃ。」

そういって彰廉先生の持っている火を海へと投げ捨てた。

火の消える小さな音と同時に闇は広がった。

彰廉先生は術で気配を隠し、爽貴様は目を開けている感覚すらない状態が続く。

辺りは静まり波の音すら聞こえず、何かに自然と耳を塞がれている様にも感じ始めたそんなときだった。

…ピチャン

海に水が滴る音だけが辺りを響かせた。

(…来た!)

右からフワッと風が通る。

『我ハ黒龍、主ハ娘の人間カ、何故ココニ立ッテイル、イヤ、我ノチカラヲ狙ッテカ…。
ナラバ試シテミルガ良イ、娘ノ人間ヨ。

耐エテミヨ、ソシテ我ヲ楽シマセヨ。』

グゴオオオオォォォ!!!

鼓膜が破れそうな黒龍の雄叫びに平衡感覚がおかしくなり倒れた。

意識も辺りと変わらぬ闇へと飲み込まれていった。

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