本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@
[04]chapter:1-2
時が止まった。
そう感じた。
いや違う。
本当に止まっている。
ビル達はブサイクな笑い顔のまま停止していた。
どうなっている?
ヴァンは辺りを見回した。
静かだ。物音一つ聞こえない。家の前を見るとシュバイツがまるで人形のように座っている。
突然のことにヴァンは動揺を隠せなかった。
「な...なん...」
ガッ!!
不意に右手に違和感を感じた。
「うわぁ!」
その瞬間辺りがざわめきだした。というよりいつもの日常の音がなり始めたのだ。
目の前ではビル達がさきほどと同じようにゲラゲラ笑っている。
シュバイツはワンワン吠えている。
バグマン夫妻の家からはガラスの割れる音が聞こえる。
いつもの風景、いやさっきまでの風景がそこにあった。
「え...なんで...なんなの...?」
すると突然ビル達の笑い声がおさまった。
何やら驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「な、なんだお前!?」
ビルは明らかに動揺しながらこちらを見て指を指した。
お前?僕はヴァンだ。ただでさえオツムの低いビルがさらにバカになったのだろうか。
後ろではまだシュバイツが吠えている。
珍しい。
めったに吠える犬じゃないのにシュバイツはしきりに吠えていた。3日前にシリウスが拾ってきた時は初対面の僕にさえ吠えなかった人なつっこい犬なのに。
ゾクッ...!
ヴァンは背中に悪寒が走った。
なんだ...これ...?
なんで今頃気付いたのか。それほど僕は鈍感なのだろうか。
ヴァンの右手には黒い皮手袋の手が握られていた。
ヴァンは後ろを恐る恐る見た。
ビル達の反応をようやく理解した。
ヴァンの後ろには黒いフードを被った人間がたっていた。
いや、もちろん人間なのだろうが頭にもフードをかぶっており顔が見えないせいかその姿はまるで黄泉の国から迎えに来た死に神のようだった。
ヴァンは腰が抜けてその場で尻餅をついてしまった。
「お前誰だ!?いつのまにそこにいるんだ!?」
ビルは黒フードに対して叫ぶように聞いた。
しかし黒フードは黙ったままうんともすんとも言わなかった。
風が黒フードを靡かせていた。
フードの中はまるで闇が広がっているかのように暗い。
すると静かにそいつは黒フードを頭から取った。
黒髪の長髪に、蒼白のゴーグル。顔立ちは綺麗で男なのか女なのか分からなかった。
辺りは騒がしかったがこの独特の雰囲気をもつこの人のせいで周りの空気が薄く感じた。
ヴァンは恐る恐る口を開いた。
「あ...あの...」
「やっと着いたか」
「!」
声が高い。どうやら女性のようだ。身長は168はあるのだろうか。
ヴァンの身長よりは余裕で高かった。
「おぉいお前!無視するなぁ!!」
ビルが目の前で声を張り上げた。
だが黒フードの女性はまるで何も聞こえてはいないように周りをキョロキョロ見渡した。
「さて...そんなに大きくはないみたいだが探すには一苦労ありそうだな...」
落ち着いた声だった。ヴァンは右手を握られたまま固まっていた。
「おい君たち」
女性はビル達の方を向いてそう言った。
「な、なんだ!?」
「探し人がいるのだが少し訪ねてもよろしいかな?」
女性はヴァンの右手を握ったままだったがまるでヴァンがいないような振る舞いだった。
ヴァンはこの女性がこちらに少しも意識をしていないのが感じてとれた。
「探し人ぉ?なんでお前なんか…」
と、言いかけた所で隣のバートンに制止させられた。
「なんだ!?」
「ヒソヒソヒソ...あいつ女ですよ...ヒソヒソ..女性には優しくしないと人気が...」
バートンは何やらビルに耳打ちをしているようだがヴァンには聞こえなかった。
女好きのあいつらのことだ。鈍感なビルにバートンが何か入れ知恵をしたのだろう、とヴァンは思った。
案の定ビル達は態度を豹変し優しい(と本人達は思っているのだろう)顔で女性に聞き返した。
「どうしましたお嬢さん?誰かお探しですか?」
吐き気がしそうだ。
「すまないね。この村でシルウァヌスという人を探しているのだが...」
ヴァンはドキッとした。この女性が探しているのは『シルウァヌス』―?
僕――――?
ビル達は微妙な表情をした。
それはそうだろう。
女性の探していたのは僕…そうあいつらの気に入らない奴No.1の僕だったのだから。
だが今はそんなことはどうでもいい。この怪しい女性が僕を探してる?
何故?
どうして?
なんのために?
「どうした?何を黙っている?」
「あ...あの...」
ヴァンは再び恐る恐る口を開いた。
「ん?あ、すまない」
この女性はほんとに今僕に気付いたらしい...と思わざるおえない反応をした。
さすがに悲しく感じたヴァンであったが続けて言った。
「シルウァヌスは...僕...です...」
一瞬空気が止まった。今度はさっきのような現象が起きたのではなく二人の間の空気がとまった。
「君が...シルウァヌス?」
「は...はい..一応...」
この村でシルウァヌスという名字は珍しく僕だけだった。
このカルナ村は小さいのでシルウァヌスという名字は自分以外聞いたことがないので自信を持ってそう言えた。
『一応』は余計だったなとヴァンは少し思った。
「そうか、君が。探す手間が省けたよ」
女性の声は何も変わらず冷静だった。
ヴァンは男みたいなしゃべり方をする人だなと感じた。
「いきなりですまないが君の家に案内してくれないか?」
「え?ぼ...僕の家にですか?」
ヴァンは迷った。あまりに怪しすぎる。悩んでいるとビルはわって入った。
「おいお嬢さん。そんな奴より俺達とどこかに行かないかい?」
「すまないが急な用事だ。今すぐお願いしたい」
女性はビル達を無視した。というよりまるで耳に入っていないようだった。
ビルは顔を赤くし眉間にしわを寄せている。今にも爆発しそうだ。
「おいあんたぁ...聞いてんの...」
「小僧達には用がない。さっさとこの場から去るがいい」
ヴァンは女性のいきなりの冷徹な声に驚いた。
「あ゙ぁ!?あ゙ぁぁ...はい」
信じられない光景が目に入った。なんとビル達が素直に女性の言ったことに従いこの場を去っていくではないか。
ヴァンは目を丸くした。
女性はヴァンのほうへむき直した。
「それで...」
ガルルルルルゥゥウヴォワン!!!
シュバイツがこの3日間で見てきた中では考えられないような鳴き声で吠えた。
そういえば先ほどからずっと吠えていた。
この女性が見知らぬ人だからだろうか。
そんなことはない。
ヴァンはそう思った。
この犬はこの3日間飼ってきたが初対面の人にもまったく吠えなかった。あのビル達にさえ吠えなかったのだ。
むしろシュバイツは人なつっこく初対面の人でも自分から懐いていったほどだった。
それが何故いまになって。
そうヴァンが考えていると家から戸を開けてシリウスが出てきた。
おそらくめったに吠えなかったシュバイツが吠えているのを気にして出てきたのだろい。
「いったいどうしたんだシュバイツ...ん?ヴァン?なんでまだここにいるんだ」
ヴァンはこの時あることに気がついた。
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