第41章


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「ちょっと、真面目にやってんのかい!?」
「大真面目だってんだ、ちきしょうめ!」
 あの時の突風は火事場の馬鹿力によるまぐれだったとでも言うのか、何度羽ばたこうとも、
まるであの時の手応えは感じられなかった。そうこうしている内に、蜘蛛達は容赦なく迫る。
「ああ、もう、風はいいよ! 他に、何か出せるものは無いのかい? 炎とか、水とか、電気とか!」
「出ねえよ、んなもん! オメーこそ、スリープを眠らせた妙な技は使えねえのかよ!?」
「一匹、二匹眠らせられたところで、どうなるってんだい! 男ならやる前からつべこべ言わず、
死に物狂いで何か出そうとしてみな! オラッ!」
「ちょ、やめたげ――ぐぇッ」
 ニャルマーは強引にあっしの首根っこを掴み、無理矢理あっしの頭を奴らに向けさせて壊れたテレビを
直すかのごとく乱暴にげしげしと叩き始める。しかし、そんな事で炎も雷も出せるはずも無く、
出るのは乾いた咳だけだ。
「テメ……ゲホッ、いい加減――ゴホッ……ゲホッ――?」
 咳き込んでいる内に、その中に徐々に黒い煙のようなものが混じり始めていることに気付く。
「これは、煙? ……ああ、そうか、きっと炎の兆候だよ! どれ、もう一発ガツンとくれてやったら、
景気よく噴き出るかもしれないね」
 言って、ニャルマーは強かにあっしの頭を殴りつけた。
 その瞬間、あっしの中で何かが決壊し、喉の奥からドス黒い煙がどんどんと溢れ出して来る。
「おおお、いい感じじゃないか。さあ、早くあの蜘蛛共を焼き払っちまいな!」
 得意げになってニャルマーはびしりと蜘蛛達を指す。蜘蛛達は怯んだ様子で、あっしらからじりじりと
後退していった。

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