第41章


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 想定外の事態に驚愕した様子で、マフラー野郎は宙に浮き上がらされながら辺りを見回す。
それから、樹の上にもう一匹潜んでいたアリアドスが自分を妖しく輝く目で凝視している事に気付き、
マフラー野郎は合点がいったように苦く表情を歪めた。サイコキネシス――主にエスパータイプのポケモンが
使う強力な念動力なのだが、虫ポケモンの中にも多くの経験を積む事で習得できる者が存在すると聞く。
その中の一匹が、アリアドスだったというわけだ。
 マフラー野郎も抵抗しようとするが、既に完全に術中へと嵌り込み身動き一つ取れなくなっていた。
宙を漂うマフラー野郎に向けて、更にアリアドスとイトマル達は一斉に糸を吹き付け、マフラー野郎の体は
一瞬で虫の繭のように雁字搦めにされてしまう。
「さ、流石にありゃ幾らアイツでも不味そうだよ! 何とかできないのかい!?」
 大慌てでニャルマーはあっしに詰め寄る。
「な、何とかったって――!」
 イトマルの数は多く、その上進化系のアリアドスが二匹もいる。上手く隙をつけたって、
あっしらの力であの何重もの糸をすぐさま千切ることなんてとても出来そうにない。
 あっしらの声に気が付き、アリアドスとイトマル達が一斉にこちらへと目を向ける。
「き、気付かれちまったよ……! そうだ、ほら、アンタがデパートから飛び立つ時に巻き起こした突風、
あれでアイツらも吹き飛ばせないのかい?」
「そ、そうか!」
 あっしは翼に渾身の力を込めて懸命に羽ばたく。……しかし、巻き起こせたのは突風などとは程遠い、
風呂上りにでも浴びたら丁度良さそうなそよ風程度のものだった。


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