第41章


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 ――
「な、なあ、ちょっと待つポ……ごほん、すまない、取り乱した。その助け出したピチューの物言いは、
まるっきり僕達のボスそのものじゃあないか。まさかボスはその時のピチューだったっていうのか?」
身を乗り出すようにして問うエンペルトに、ドンカラスは帽子のつばを下げフッと息をつく。
「……本当にそうだったら、どんなにいいか。あっしも幾らか救われた気になれたかもしれねえ。
すまねえ、今話したあのチビ――ピチューの言動は、あっしの願望が混じった脚色だ。
今のボスがあの時のピチューであってくれたなら、こんな風に言っていたんじゃあねえか、ってな。」
「ええ?」
「あんな高圧的な喋り方をするピカチュウ族なんて、ボス以外にゃ見たことも聞いたこともねえ。
あのピチューがそんな強烈な喋り方をしちまってたら、この洋館に初めてボスが攻めてきた時点で、
あっしもすぐにボスがあの時のピチューじゃあねえかって気付けまさぁ。だが、こうしておめえに過去を話して、
顛末をあっし自身も明確に思い出していく内、やっぱり、ありえねえって思い知らされる……」
 沸き上がるものを喉の奥底へと飲み込むように、ドンカラスは嘴に勢いよくグラスを傾けた。
再びグラスを机に置きなおした拍子に、中の溶けかけた氷塊から小さな氷の粒が剥がれ、底へと滑り落ちていく。
「実際はその子、どんな感じだったんだ?」
「態度自体はさっき話した通りと然程変わらねえ。愛想の欠片もねえジト目のガキよ。
ただ違うのは、ひたすら無口だったことだ。マフラー野郎の背中で、あのチビは蛹みてえに大事にマフラーに
くるまれて引っ付いたまま、口元はいつもムスッと不機嫌に結んでた印象しかねえ。
自ら何か言うことなんてまず無かったし、こっちが呼びかけてもぷいと顔を背けるか、たまに頷くかくらいだった」
「どちらにせよ、ピチューにしてはちょっと変わった子には違いなかったんだな」
「まあ、そうだな。だが、そんなヤツでも一緒にいる内に何ともいえねえ愛着が沸いていやした。
何も言わねえでも、何となく身振りで言いてえことは少し分かるくらいにはな。
……他に今の内に聞いておきてえことはありやすかい?」


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