第三章 迷い〜そして戦場へ〜
[25]第六一話
「スフィアの設置が完了しました。映像回復します」
オペレーターが計器を操作するとメインディスプレイに着弾地点の状況が映し出された。
画面は靄のような白い煙で空間が包まれ、場所によっては濃淡があるが、それでも未だに魔力が高濃度に残留している事を示している。
「高度二kmでもまだ見えないのか」
「はい。光波、電磁波等の全ての波長を観測してもこれ以上は分かりません」
慶喜の予想通りの答えが返ってきたが、それがさらに彼を苛立たせた。
大切な人をまた失ってしまうのだろうか。
そう思うだけで、現場にいても同じように無力な自分に腹が立つ。
「こんな事のために私はここにいるわけではないのにな…………」
思わずこぼれた慶喜の苦しみ。
当然それに応える者はおらず、司令部内に暗い雰囲気が漂い始めた。
オペレーター達が少しでも状況が分かるよう必死に計器類を操作しているその時、
『こちらセイランです。慶喜司令、応答願います』
「あ、ああ。こちら司令。セイラン、どうした?」
いきなりの通信に慶喜は思わず動揺してしまった。
セイランはそれに疑問を抱いたかもしれない。
だが、幸いにも音声通信のみだったので深く追求される事はなかった。
『島のほうは片付きました。梶原さんが処理をしています』
「君は今どこに?」
『現在太平洋上空を移動中です。これより本土の戦闘支援を行うので指示をお願いします』
「分かった」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「くらえ! 地走り!」
アリアが刀を地面に突き刺した同時に大地が大きくひび割れ、瓦礫が針となり天を仰いだ。
地割れは直線に進みを如月を肉塊に変えようと襲いかかる。
「なにっ!?」
アリアは目を見開いた。
地割れが如月の眼前で止まったのだ。
「残念だったな」
如月は地割れでできた瓦礫の針を素手で止めていたのだ。
「今俺は物凄く機嫌が悪いんだ。これ以上戦いをすれば、黒崎アリア、お前が死ぬ」
「なんだと? 舐めた口を聞くな!」
『おいおい。アリア、今のあいつはかなりマジだぜ? ここは恥を忍んで見逃してもらったほうが無難だぞ?』
「うるさい!」
バルザールの忠告はアリアの叫びに否定された。
『知らねえぞ』とバルザールは閉口すると押し黙った。
その様子を一部始終見ていた如月は目を細めると何かを呟き始める。
瞬く間にアリアの身体に魔力でできた縄が巻きつき、自由を奪った。
「な、何をする気だ……!」
「そのバインドは簡単には破れない。しばらく大人しくしてもらう」
必死にもがいてバインドから抜けだそうとするアリアに対して、如月はマグナムをダガーモードから通常の銃に戻した。
撃鉄をゆっくりと起こして、銃口をアリアに向ける。
「仲間が回収する予定だ。詳しい話はその時に聞かせてもらう」
パン、と乾いた銃声が辺りに響いた。
「くっ…………ひ、きょうな……」
最後まで如月を睨みながらアリアはその場に倒れ伏す。
その様子を無言で見下ろしながら、如月は自分の黒衣のコートをアリアにかけてやった。
「雷蹄、あとは頼む」
『ケッ。誰がテメェみたいな野郎に頼まれなきゃなんねーんだよ』
バルザールの文句だけ聞くと、如月は“扉”へと向かった。
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