〜第2章〜 扉
[12]2000年 3月9日 午後8時40分
僕の顔が白銀の銃に映る。
「……!」
確かにその通りだった。
なるほど、パルスのアイタイプは群青で、それは透明な川の流れのように、澄んでいた。僕の中にパルスがきっと……。
それにしても、瞳の色が変わっただけで結構イケメンになったな。
「準備も整ったし、いよいよ出発ですよ相沢くん!」
ハレンは手をグルグル回した。
清奈はというと、特に喋ることも無く、グレームドゥーブルの方に目を流していた。
対照的だなあこの二人は。
いつも明るいハレンと
冷静で気が強い清奈。
背の高さも清奈の方がずっと上だし
髪もハレンはショートに対し清奈はロングだ。
剣士と魔法使い、
これも対極的だ。
そして、胸の…
語らないでおこう。
【ハレン】の対義語は【清奈】と呼べるかもしれない。
そして二人は先輩と後輩の関係。
そういえば二人はどうやって出会ったんだろう?
「……くん。相沢くんったら!」
「あ…!ごめん、考え事してた。」
清奈は少しぶっきらぼうに
「へえ、これから戦場に足を踏み入れるっていうのに随分と余裕ね。」
「いや、そうじゃないんだ。ごめん……」
「念の為にもう一度言っておくけど、自分の身は自分で守りなさい。油断していると数秒で即死するわ。」
「ネブラってそんなに危険な連中なのか…?」
「何?ネブラと戦うことが危険なことではないと言いたいのかしら?」
「いや、ごめん。気を悪くしたなら謝る。」
そうだよな。きっと清奈やハレンは、僕がタイムトラベラーになる前から、ネブラと死闘を繰り広げていたんだろう。今の僕の発言は余りにも滑稽すぎる。
「別に謝らなくてもいいわ。今後気をつければそれで十分よ。」
「あぁ…分かった。」
時刻は8時40分
定刻まで後5分だ。
僕の緊張感が高まる。
グレームドゥーブルはまだ建設中で、あちこちに赤い鉄骨が剥き出しになっているのが見える。高さは2007年に比べると低い…。
あっ……
確かこのビルの屋上辺りが、2007年に火災が起こった所だ。ということは、放火されたとしたら、戦いの場は屋上――
その前にまず、グレームドゥーブルを囲む高い壁を越えなければならない。
安全第一と書かれたそれは3メートルは確実にある。そして手足をかけれそうな所も全くない。
「どうやって登るんだ?この高さ……。」
「飛べばいいじゃないですか。」
ええ、ハレン。
何を言ってるんだって
えええええぇぇぇぇ!?
隣で清奈が、いとも簡単に高く飛び、壁の上に立っている。
「中に人気は無いわ。入っても問題は無さそう。」
「分かりました。じゃあ……それっ!」
ハレンもかよ!
簡単に壁に乗って座るハレン。こちらを向いた。
「後は相沢くんだよ〜。」
おーいという風にハレンは僕に呼び掛けるが、
いや、普通に出来ない。
僕は北京オリンピックで金メダルを狙っている走り高跳びの選手じゃないんだぞ。
「簡単ですよ。タイムトラベラーになった相沢くんなら、これぐらい楽勝ですよ!」
まあ、やってみよう。
僕はおもいっきり地面を蹴って飛び上がると――
僕凄ええ!
普段じゃ絶対に有り得ない所まで高く飛んだ。
「あ。」
しまった!高さは充分だが真上に飛んでしまったが故に距離が届かない!
うわ、落ちる…落ちる――――!!
すると、
僕の右手を誰かが握った。それで落下は免れた。
上を向くといたのは
清奈が僕と手を繋いでいるところだった。
「うわ……。」
清奈にとっては僕が情けないから手を握ったに過ぎないのかもしれないが、
僕にとっては違った。
感謝の念とかよりも更に強い心が僕を支配している。胸の奥が熱くなっていくのだ。ゆっくりと震え始め、僕の中の鼓動は小さな音だが、はっきりと聞こえた。今、彼女の温かい手が僕と重なりあっている。
そうか…女の子と手を繋ぐことって、今まで無かったよな…。
って
どわあああああああ!?
清奈は僕の右手を、もとい僕の体をおもいっきり持ち上げ、壁の向こう側へと投げ飛ばしたのだ!
いきなり投げって
着地どーすんだ!
「うわっ………と。」
見事に両足で着地した。
「全く世話が焼けるわね。さっさと行くわよ。」
いや、清奈。
もうちょっと僕が無事かどうか心配してくれよ。
朧月の影が見える。
見上げれば、小さく淡い光が見える。
「発生源の場所を特定しました。この屋上です。そこの貯水タンク内から妖気が広がっています。」
ハレンはネブラの気を感じとることができるらしい。
「定刻よ。潜入するわ。」
ハレンの右手に金色の腕時計が見える。その時計の秒針が12に近づく…。
3…2…1……。
三人は一斉に走って、グレームドゥーブルの中へと入っていった。
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