第39章


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「危険です。お離れください」
 踏み出すアブソルの前をそっと尾で遮り、輝き唸る爪をギラティナに構えたままパルキアは言った。
アブソルは怯まず、立ち塞がる大きな尾をかりかりと引っ掻く。
「どけて。話したいことがあるから。お願い」
 一拍の沈黙の後、パルキアは静かに尾を上に退けた。
その下をくぐる前、不意にアブソルは俺の方を振り向く。じっと俺はその目を見返す。
思いは同じ。頷き合い、再び歩み出す後ろ姿を俺は見守った。
 暗く沈んだ眼孔に光が灯り、ギラティナは己に歩み寄る姿を見やる。
パルキアは視線と爪の輝きをより一層研ぎ澄まし、油断なくギラティナに睨みを利かせた。
「恨んでおろうな。どのような言の葉をいくら紡ごうとも、許されるとは思わぬ」
 重々しく口を開くギラティナを前に、アブソルは足を揃えて座る。
「……うん、許せない」
「ああ、そうだろう。ならば悪竜は剣に裂かれ、消え去るのみ。さあ、離れるがよい」
 自嘲するようにギラティナは口端を歪めた。アブソルは首を横に振るう。
「あのままピカチュウが消えちゃったら、きっと許せなかったと思う。
でも、もうひとりのボクにも責任があったんだって、分かったから。……その、ごめんなさい」
 目を見張るギラティナに、アブソルは続けた。
「怒って頭の中がぐるぐるになってから、少し混ぜこぜになっちゃって、もうひとりのボクを、アルセウスさんを近くに感じるようになったんだ。
それでよく分かったから。もうひとりのボクはとってもわがままで、素直じゃなくて、不器用だって」
 あはは、とアブソルは自分で苦笑する。

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