第39章


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 ふん、お前のような悪霊と一緒にするんじゃあない。自分がどうなったかくらい理解できている。
あんな瘴気の塊のようなものに押し潰されては俺の体など一溜まりも無かっただろう。
だが、アブソルだけは守れた。俺にできる限りの事はした。もう未練は無い。
『呆れたな、本当にそうかい?』
 何が言いたい?
『君はまだ何も守れちゃいないし、何も出来ていない。聞こえないのか?』
 音一つ無いと思っていた暗闇に轟く咆哮。同時に鋭い光が闇を切り裂き、差し込んできたのを感ずる。
見上げると、遥か上方にひび割れのような穴が開いていた。隙間から垣間見えるのは、満身創痍のパルキアとギラティナの姿と、もう一つ――あれは、あの巨大な光は、アブソル……?
『かわいそうに、あんなに泣き叫んでいる。あれを見ても同じことが言えるのか?』
 ――ッ!だがどうしろというのだ!最早、俺には文字通り何一つ残っていないのだぞ!?
『腕輪がまだあるだろう。何一つ無いところから何かを創り出すその腕輪が』
 おい、まさか……。馬鹿を言うんじゃない!俺に出来ることなど精々蔓を生やすくらいだ。そんなこと不可能に決まっている。
『やってみなけりゃ分からない。ここは生と死の狭間。失った命が辿り着き、また新たな輝きを得て戻っていく場所だ』
 そんな所業、許されるはずが無かろう……!
『お前は帝王になるんだろう?帝王が誰に臆し、許しを請う必要がある?
さあ、しっかりと思い描くんだ。世界にいずれ知れ渡らせる自分の姿を。黄色い顔に真っ赤なほっぺ。長い耳とぎざぎざ尻尾。誇りある我らが姿をってね』


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